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​【小説】バンダナワドルディの休暇

◆子どもワドルディの家。

 


「本当に、ありがとうございます。私たちは、この国に住めてとても幸せです」

 


「はあ、ボクはその…この通り、普通のワドルディなので、お礼を言って頂くようなことは何もないのです」

バンダナは、頭を下げた。

 


「…」

子どもワドルディは、彼をじっと見ていた。

「そんなことをおっしゃらず。では、もしお帰りになって、大王さまにお会いした時は、どうかそう伝えてもらえませんか」


バンダナは、嬉しかった。

「わかりました。お約束します。きっと大王さまも喜びます」


「お兄ちゃんは、ばんだなさんが、きらいなの?」

「うん。きらいかな」

「どうして?」

「大王さまのこと、苦しめていたからさ。自分はずっといいことしてると思ってたみたいだけど、それは自分の思い込みだったんだよ。
大王さまの本当の気持ちなんか知らないで、ずっとね。そして、大王さまに、一度きらいだって言われたら、それまでの忠誠なんか放り出して、お城を出て行ってしまったんだ。

自分勝手だよ」

彼はハッとした。子ども相手に何を話してるんだろう。

子どもはじっと彼を見ていたが、

「そうかなぁ。ばんだなさん、だいおうさまがだいすきだったんでしょう。そんなひとに、きらいって言われたら、だれだってかなしいと思うよ。
そりゃ、でていきたくもなるよ」
子どもは答える。

 


「大王さまにもきっとわけがあったんだよね。ばんだなさん、戻ってきてくれるといいな。仲直りできるといいね」
そう言って、笑った。

「ああ、うん・・」

バンダナは、当惑しながら、返事をした。


まるで自分にそう言われている気がしたからだ。

 


家族のやり取りを見ていて、心が温まるのと同時に、自分の心の中に、ぽっかりと開いた空洞があることに気づく。


自分の過去を思い返してみると、こんなに温かい家庭じゃなかった。
父親は早く亡くなってしまったし、母はいつも忙しく働いていて、自分のことは自分でするのがあたりまえだった。話をしたくても、言葉がうまく出てこなかったりすると、「早く言ってよ」とイライラしていたことを思い出す。

 


愛情って何だろう。

それを充分にもらってないと感じる時、誰しも他人に冷たくなったり、攻撃したりするのだと、彼は信じて来た。

 


ボクは他人を傷つけないと決めていたが、かといって、愛してもらっていたいたのだろうか。

ボクはそうあろうとしていただけで、本当は、空っぽだったのではないだろうか。

自分を助けてくれた、大王さまに。ずっと欲しくて。もらいたかった愛情を感じた。

彼を逃がしてはならないと思ったのは、彼に自分が必要だと思っていたからだとずっと思っていたのだけれど、実はボクの方が、彼が必要だったのだ。
彼に付き従うことで、役に立てている、力になれていると喜ぶことで、ボクは、今まで心の空洞を埋めていたのかもしれない。

 


「うちの息子は、デデデ城で仕事をしたいと思っているのですが、それにはどんな条件が必要なんでしょう?」

母親は尋ねて来た。


「条件というのは、とくになにもないんです。」

彼は答える。

「でも、デデデ城にいるワドルディは、身寄りが無かったり、親に虐待に合っていたのを引き取った子が多いです。

たまに、自分から志願してくる子も、何か事情を抱えていることが多いです。
本当は、息子さんのような子が来るようなところではないと思うのですが。」

息子本人には、おいで、一緒に仕事をしよう、と言ったのとは裏腹に、

母親には現実を伝えた。

 


そういえば、ドゥさんは、どうしてデデデ城へ来たのか知らない。
いつの間にか仲間として、当たり前のようにそばにいたのが彼だった。
戻ったら、聞いてみたいと思った。
まあ、とても辛い事情なら、無理して話してもらうことはないけれど。



「お世話になりました。ありがとうございました。」

「気を付けてね」


「じゃあね、ばんだなさん」

息子はそう言って、あっしまった、という顔をした。

「えっ?」
バンダナは驚いた。

「ううん、お兄ちゃん。ぼく、必ず大きくなったらデデデ城に行くから、それまで元気でいてね!!」

「ありがとう。君も。元気でまた会おう」

バンダナは、手を振った。



彼はその後も、大王と二人で旅した道を、一人でたどっていた。
その場所はどこも、ほとんど姿を変えていて。昔の面影はなかった。

 


ここは、ポピーブラザーズに会った場所だ。

彼らは、取り出したボムを爆発させては、人々を混乱させていた。

 


「おらおら、爆弾魔のポピーブラザーズのお通りだ!」

 


その様子を、離れたところから、大王とワドルディの二人は眺めていた。

 


「うわあ、危ないなぁ。大王さま、別の道を通りましょう」

 


「いや、こっちでいい。お前は、ここで待ってろ」

そう言うと、大王は愛用のハンマーも置いたまま、彼らに近づいていってしまう。

「ええ!?本気ですか!? だって、爆弾持ってるんですよ!?」

 


大王は、ポンと兄のシニアの肩を掴んだ。

「ずいぶん楽しそうなことをしてるじゃないか。おれさまも、仲間にいれてくれよ」

 


「兄ちゃん、そいつ最近噂になってる、めちゃくちゃつよいペンギンさんだよ」

 


「ペンギンじゃない」

 


「何だって!?あのデブペンギンのなんとか大魔王!?」

 


「おい聞け」

 


「あはは、ごめんなさい、オレらペアで行動するのが趣味なもんで…」

シニアはそう言うと、

 


「行くぞジュニア!退散だ!」

「合点!!」

 

 

 

「おーい、ワドルディ終わったぞ。」

「よかった。ずいぶん素直に引き下がりましたね…」

 

 


「あ、大王さま!後ろ!!!」

「!」

大王が振り返ると

 


「死ねぇ!!」

シニアが爆弾を構えて飛び出してきた。

 


爆風が巻き起こる。

 


「大王さまぁあ!!!」

ワドルディは悲鳴をあげた。

 


「あははは!ペンギンの丸焼き一丁!!」

シニアが面白がってゲラゲラ笑っていると、再び何者かから後ろから肩を掴まれる。

 


「!」

 


「一旦引いて、相手を油断させる。戦略の基本だな。いいじゃないか。でもな」

「ヒッ!!?」

 


「詰めが甘いんじゃないか。こうやって、もし失敗した時の対策を何も考えてなかったんだったらな」

 


「----------!!!」

シニアは声にならない悲鳴を上げると、

 


「行くぞジュニア!!!」

一目散に立ち去った。

「へっ余裕ぶりやがって!今回のところは見逃してやるが、次はその腹ごとふっ飛ばしてやるからな!!デブ!!」

 

 

 

「大王さま」


ワドルディが駆け寄る。

「怪我がなくて本当によかったです」

 


「あの、大王さま?」

 

と見上げると、大王は、

「おれさま、太ってない…」

と涙目になっていた。

 


…気にしてたんだ。

とワドルディは思った。

 


「いいえ、大王さまは、太っています。でも、そこが素敵なんです」

彼は励ましたつもりでそう言った。が、残念ながら、逆効果だったようで、

「やせよう…」と呟いていた。

 


が、大王は

「お前が声を掛けてくれなかったら、やられてたかもな」

そう言うと、

 


「ありがとな」

と、ワドルディの頭をポンと、柔らかくたたいた。

 


彼は、嬉しくてたまらなかった。

 

 

 

ポピーたちが仲間になったのは、だいぶあとの話なのだが。

そうやって大王と、「俺は強いぜ!」と威張って暴れている人を見つけてはケンカを申し込んで…、という旅をしていた。

彼のうわさが広まるうちに、ワドルディのように、子分になりたいというものが現れて、にぎやかになっていったのだ。

 


そして、ぞろぞろと旅を続けても仕方がないので、と

山の上に立っていた廃墟のお城を改装して住むことにしたのだった。

それが今の、デデデ城だ。

 

 

いつの間にか、国民の皆も彼を王様と呼ぶようになっていた。

最初こそ、「デデデ大王」と言うのは彼のファイターネームのようなもので。

なんとなく強そうだからという理由で王様にしたのだと言っていた。

彼はべつに、王になろうなんてつもりではなかったのだ。

 


でも、ワドルディは、彼こそが、王様にふさわしいと思っていた。

 


特別な力のあるものも、ないものも、助け合って仲良く生きている。
あきれかえるほど、平和な国。

 


その理想の国には、いつの間にかこの、ケンカ馬鹿で強くて…泣き虫でもあり、弱い者の心もずっと見つめていた、優しい王様がいたのだ。


彼の理想の世界は、ちゃんと実現していた。
その国も、なんだかんだで皆家族なデデデ城も、まぎれもなく、彼が大王と二人で築いてきたものだったのだ。

『お前がいなかったら、俺はここにはいなかった』

彼の言葉が浮かぶ。

『君が思っているより、大王さまは君に感謝してるんだよ』

ドゥの言葉も、それを後押しした。


「ボクのしたことは、無駄じゃなかった。
ちゃんと、皆に喜んでもらえていたんだよ。」

 


それに、何より今、喜んでいるのは。

そんな夢を描いてきた、ボク自身だったのだ。

 


バンダナは、空を仰いだ。
 


ボクがいなくても、デデデ城は大丈夫。
ボクがいなくても、大王さまは大丈夫。

カービィも。皆も。この国も。きっと大丈夫だ。


それは改めて、よくわかったことだった。

でも、ボクは、結局どうしたいのだろう。
それは何もわからないままだった。

 


「ん?バンダナワドルディ。君なのか」
後ろから声を掛けられて、振り返る。

「メタナイトさん!」

メタナイトは、一度一緒に旅をしたこともあるものの、普段はどこにいるのかわからないし、ふとしたタイミングで現れる。

メタナイトも、バンダナをつけていなくても、自分をわかってくれたようだった。

 


もし今、話をするとしたら、彼しかいないとワドルディは思った。

メタナイトの都合を確認したうえで、彼は一気にこれまでの経緯を話す。

メタナイトはそれを、黙って静かに聞いていた。


「ボクはこれからどうしたらいいのか。どうするべきなのか。

もちろん、自分で、どうしたいのかわかった上で、決めようと思ってました。
…でも、何も、見つからなかったんです。」

彼は、しょんぼりと肩を落とす。

 


「そうか。」

メタナイトは呟いた。

 


「残念だが、それは私にも、君が自分で決めるんだ…としか言えないな」

 


メタナイトは言うと、視線を空に映す。

もう日が沈み、星が瞬き始めている。

 


「そうですよね」

ワドルディは、彼がそう言うのも、もっともだと思った。

でも、彼が話を聞いてくれて、とても嬉しかった。

心が軽くなった気がした。

そう伝えようとしたとき。

メタナイトが先に口を開いた。

 


「…しかし、無理して決めろと言うこともできない。なぜなら、まだ今は決めない、という選択肢もあるからだ。」

「えっ」
ワドルディは、目を丸くした。

「決めなくても…いいん…でしょうか…?」

彼は、狼狽えながら聞き直している。

 


「確かに、何でもかんでも、きっぱり決められると気持ちがいいだろうな。だが、実際はそうはいかないこともたくさんあるだろう。
そんなときは、私は、時の流れに任せているかな」

 


「時の流れに…任せる。」

彼はメタナイトの言葉を反復する。

 


「その様子だと、君は自分の思いつく、出来る限りのことをしたんだろう?」

 


ワドルディは、ゆっくりと、頷いた。

 


「では、それでいいじゃないか。

かといって、諦めることもない。見つけたいと心から願っていれば、それはいつかそのうち、見つかるものだ。」
メタナイトは、仮面から見える双眸を緩めて微笑むと、

「何も、心配はいらないさ」
そう言って、頷いた。

ワドルディは、自分を繋げていた重い鎖がぜんぶ外れた気がした。

「ありがとうございます!メタナイトさん!!」

彼はそう言うと、走り出した。

 


…ボクは、やっぱりお城へ帰ろう。

自分がどうしたいのかは見つけられなかったけど、ボクは皆が、大好きなんだ。

皆に、今すぐ会いたい。
皆と一緒に、これからも生きていたいんだ。

 


様々な問題、解決できない困ったこと、それがいいのか悪いのか決められないこと…たくさんあるけれど。
彼はただ、その思いを一つだけ、大切に抱えて、家路を急ぐ。

大切な人たちに、ただいまを言うために。


「ああ。健闘を祈るよ」
メタナイトは彼の背中にエールを送ると、マントを蝙蝠の翼に変形させて、その場を飛び去った。

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