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​【小説】バンダナワドルディの休暇

◆プププランドはずれの、とある駅

 


ホームから、列車が発車する。

その列車の中で、バンダナワドルディは窓の外を眺めていた。

 

今は青いバンダナを外してきているので、彼は、ただ一人のワドルディだったが。

 

 

城を出る時、ワドルドゥは彼に言った。
「もしも、ここよりも、快適だと思える場所を見つけたら、ずっとそこにいるのもアリだよ。
大王さまには、適当に話をつけておくから。
その時は、よければ手紙を送ってほしいな」

これは休暇で、色々と普段できなかったことをして、納得できたら、戻るか。
それとも、このまま大王さまのもとを去ってしまうか。
ドゥは、彼がどちらを選んでも、構わないし、何も問題ない。そう言ってくれた。


「…そうなんだ」彼はぽつりと呟いた。

そして、あの時自分が大王に言ったことを、今度は自分に言い聞かせるのだった。

「ボクが城を出れば、少しの間は皆大変かもしれない。だけど、やがて慣れちゃうし、ボクの代わりの人が現れたりして、埋まっていくんだ。」

「ボクが、本当は嫌だ思いながら、大王さまとの関係を続けていたって…お互いのためにならない。その通りじゃないか。大王さまには、これからも、傍で支えてくれる人が必要だと思う。でも、それは…ボクじゃなければいけないわけじゃない。
だから、ボクは、好きなだけ悩んでみよう」

…ボクは、これからどうしたいのか。

彼は思った。そして、


…大王さまと出会った場所から、今までの道を、もう一度巡ってみるのはどうだろう。

 


そんなことを思いついたので、彼は旅に出ることにしたのだった。

 

 

 

その前に、彼は、カービィに会いに行っていた。

 

 

◆ワドルディは、カービィに会いに来ていた。

 


カービィは、家の近くの河原で釣りをしていた。


「ワドルディ。どうしたの。いつもの頭の青い布は、もうやめたの?」
彼は、バンダナを巻いていなかったがわかったらしい。

 


「今、休暇をもらってるんだ。アレがあると、仕事のことを考えちゃうからね」

 


「それはいいじゃない。」

カービィはそういうと、

「ぼくも、君はもっといっぱい遊んだほうがいいと思ってたんだよ。一緒に釣りしてく?」

 


うーん…とワドルディは迷ったが、

彼が釣りをしている横で、座って見ていることにした。


「カービィ、君は大王さまのこと、どう思ってるのかい」

「ん?」

突然彼がふった話題に、カービィは?マークを浮かべている。

ワドルディは、川のせせらぎを眺めながら、話を続ける。

 


「…ボクはね。

今までずっと、大王さまのこと大好きで。長い間でお供をしてきたんだけど、大王さまはボクのこと、そんなに好きじゃなかったみたいなんだ。」

 


「そうなの?」

カービィも驚いて、彼を見た。


「うん。ぼく、このままでいいのかわからなくなっちゃってね」

ワドルディの静かな一言を聞いて、

 


「そうだったの」

カービィは、呟くと、

 


「…贅沢なやつだね、大王は」

と付け足す。

 


「え」

ワドルディは驚く。

 


「ぼくは、よくわからないな。大王のことをどう思ってるか」

カービィは話をつづけた。

「大王のことはしょっちゅう、憎たらしいやつだって思うよ。
君やお城の仲間もいて、けっこう皆に愛されてて、傍から見れば幸せなんじゃないかって思うのに、、肝心の本人は、子どもみたいにわがままで自分勝手で、あれが欲しいこれが欲しいっていうし、ケチなんだもん。おいしいケーキやごはんぐらい、ぼくにわけてくれたって、べつにいいよね?

それに、思い付きやいたずらに皆を巻き込んで、迷惑かけててさ。彼がいなくなったら、いったいどんなにこの国は平和になることか!」
カービィはそう言って笑い出した。

 


「…そ、そう かな」

…確かに、勝手にもらって行くと怒るけど、けっこう、カービィにはお菓子や食べ物をごちそうしている気がするけどなぁ…とワドルディは思ったのだが。


「きみももっと、のどかに暮らせるよね、きっと」

カービィは、こそっと、内緒話をするような口調でそう言った。

 


「…」
ワドルディは何も言えなくなる。
彼から飛び出したのは、大王の容赦のないダメ出しだった。
これを聞いた大王が、真っ赤になって怒り出す姿が浮かぶ。

 


「でも。」
カービィが、さらに何かを言おうとしていたので、ワドルディは、続きを待った。

 


「ぼくに何度も勝負しようって言ってきて、いつも負けちゃうくせに、こりずにお前より偉いんだぞって威張ってて、何かあると叱ってくれるのは、嬉しくなくもないんだ。」
彼は釣り糸の先を見つめながら続けると、

 


「君みたいに彼のこと、大好きだなんてとても思えないけど、なんだかんだで、嫌いにはなれない」
そう締めくくった。

 


そうか。ワドルディは思った。

 


大王さまは、カービィのそんなところに惹かれていたんだな。

思ったことははっきり言うし、生意気で失礼なところもあるけど、彼のダメなところに文句をいいながら、その上で、いいところもちゃんと見ていて、彼を決して嫌いになることがない。

だから、彼にとって、きっと、居場所になることができたんだろう。

 


「あんな感じだけど…大王さまは、君のこと、本当は大好きなんだよ」

ワドルディはそう呟く。


「へっ」
カービィは目を丸くしてワドルディを見た。

そこにちょうど魚が掛かったようで、急いで竿を引き上げるが、残念ながら何もかかっていない。逃がしてしまったようだ。
カービィは、どうしてくれるんだよーとばかりにふくれっつらをして彼を見る。
「もー、ワドルディ…」

「あ、ごめんね?…なんか」
ワドルディは苦笑いしながらそう言った。

「大王さまは、カービィには俺しかいないって、思ってるみたいなんだ」
「何それ…彼がそんな気持ち悪いこと言うの、想像できないんだけど」

「そう?じゃあ、迷惑…?」
「うん、かなり」
そう言いながら、カービィは再び、餌を括りつけた釣り糸を、うきが遠くに行くように振った。
「なんで”ぼくに”自分しかいないって勝手に決めるんだよ。そこが非常に迷惑」
「?どういうこと?」
「”ぼくのこと”を勝手に決めるなってこと。
”自分には”ぼくしかいないって言うんなら、まあちょっとは可愛いげがあるかもしれないけどねぇ…」

そう言って、彼は、丸い頭をポリポリと掻いている。


「…」

…なんだ、ちょっと嬉しいんじゃないか。
バンダナは思った。

「カービィ。これからも、大王さまのこと、よろしくね」

「え?」

ワドルディはそう言うと、
「ボクは、もう、行かなくちゃ」
と、急いでその場を走り去った。

「ワドルディ!どうしたの!?…魚のおいしい焼き方を、もう一度聞きたかったんだけどなぁ」

 


カービィはワドルディの行った先を見つめていたが、ま、いいかと釣りを再開することにした。

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