星咲く宇宙を君と
Kirby Fanfiction site
【小説】バンダナワドルディの休暇
◆プププランドから遠く離れた、とある集落
当時、プププランドは、今ほど平和ではなかった。
育った町では、能力持ちの悪ガキどもから、陰湿ないじめに遭っていた。
同じワドルディの仲間は、自分を助けてくれなかった。
無理もない。
何の能力もない彼らは、自分を助けるだけの力はないし、悪ガキたちに目をつけられれば、自分が同じ目に遭うかもしれない。
自分の身を守ることで精一杯だったのだ。
自分を育てていた両親が病気で亡くなり、アルバイトをして生計を立てていた彼は、学校に通うこともできなかったが、その分、古本屋や、図書館に通って本を読んでいた。
とある本を読んだとき。
自分をいじめた悪ガキのように、人に危害を加えるような人格は、どのようにして出来上がるかを知った。
愛情を十分にもらっていない、空虚な心屋、寂しさが、彼らを乱暴な行動に走らせる、という考え方だった。
本来は誰しも純粋な心をもってうまれてくるのに、育った環境によって、そんな性格に染まってしまうのだという。
そんな考え方に触れて、彼は怒りを覚えた。
自分をいじめるこの人たちも、本当は、心に痛みを抱えているのだと、思えてきたためだ。
では、いったい誰が悪いのだろう。
それはわからなかったが、とにかく、自分だけ、被害者ぶるのはやめよう。
もっと、ボクは、強くなろうと思った。
特別な力はなくても、心を強く持とうと決意したのだ。
そして、彼らのその寂しさや空虚さに寄り添うことができれば、
皆、仲間になれて、助け合える可能性を感じてならなかったのだ。
そして、いつか、国をつくる側の人間になろうと思った。
愛情をもらっていないから、他人を傷つけてもいいなんて、そんな子供が育たない、幸せな国にしたいという願いを持っていたのだ。
しかし、ある日。街をうろついていた不良たちに、せっかく苦労した稼いだお金をとられてしまう。
彼は、恐ろしかったが、精一杯の勇気を出し、彼らに真っ直ぐ向き合った。
これは、身寄りのない自分が生きていくために必死で稼いだお金だ。
これがなくなってしまうと生活ができない。
だからお金はあげられない。どうか見逃してほしいと、彼らが理解してくれる可能性を信じて、丁寧に説明した。
だが、彼らはゲラゲラ笑いながら、
「俺たちだって、生活しなきゃなんねーんだよ!」
「そうそう!今日もご飯をくわねーと死んじゃうからヨォ!」
と、彼を一蹴した。
その様子から、言葉とは裏腹に、きっと充分、良い思いをしているに違いない。ワドルディのような、弱者から脅して奪って。
そうやって、財布を持っていかれてしまった時。彼は、思った。
自分の抱いていた願いが、理想が。ただのきれいごとだったと知った。
丁寧に説明なんてしたって、笑われただけだった。そんなことする暇があるなら、とっとと財布を取りかえして逃げればよかった。
あるいは、あいつらに遭遇しないように、気を付けて帰るべきだった。
それに、バイト代を割り増ししてくれたことが嬉しくて、はしゃぎながら帰ってしまった自分を後悔した。
店長とのやりとりをまさか彼らに見られていたなんて思いもしなかった。
本当は、この世界に悪者なんて存在しない。
するとしたら、彼らに愛情が不足しているため。
そんなことを思って、だから大丈夫だって、へらへら笑っていたせいで。
あいつらを信じたせいで、
ボクは全財産を奪われて、もう明日から生きていけないのだ。
自分は、飢えて死ぬしかないのだ。
そんな自分を恥じ、
「だからぼくはだめだったんだ…」と泣きながら繰り返していた。
そんな時、彼はその人に出会ったのだ。
「泣いてたら、金が戻ってくるのか」
背中から掛けられた声。
それは慰めでも、批判でもない、問いかけだった。
どうするのか?と。
このままお前は泣いてるのか?と。
はっとして、振り返ると
その声の主はもうどこかへ行ってしまっていた。
でも、今でもはっきり思い出せる。
間違いはない。あの人だった。
涙をぬぐって、精一杯立ち上がって。乱暴者たちが去って行った方を追いかけると。
なんとそこには、彼らをぼこぼこにして、「ちっ。もうおしまいか…つまらんなぁ」とあきれながら座っている者がいた。
が、ワドルディを見つけると、彼は、しまった、という顔をして逃げ出した。
「待ってください!!」
落ちていた財布を拾うと、助けてくれてありがとう、と伝えたくて、必死で追いかけた。
「せめてお礼だけでもさせて下さい!!」
「知らん!むしゃくしゃしてたから、ケンカしただけだ!礼を言われるようなことはしてない!」
「そんなことを言わないで!ボク、わかってますから!!どうかお願いします!!!」
こんなに全速力で走ったのは、どれくらいぶりだろう。
とにかく、バイト疲れでへとへとなはずのことも忘れて、必死で追いかけたのだ。
その追いかけっこは、
「しつこいやつだな!!いい加減あきらめないと、痛い目に遭…」
と振り返ったその人が、小石につまずいて、
「あ、危ない!!」
盛大に転んで、がれきの山に頭から突っ込んだことで、終了したのだった。
◆
今はそのさびれた町は、新しく、のどかな村に生まれ変わっていた。
「…懐かしいな。」
ワドルディは呟く。
「あの頃から、あの人は変わってない。」
そう言いかけて、
「いや、変わったこともたくさんあるか」
その時。
「…ん?」
野原で、一人のワドルディが昼寝をしているのを、見つけた。
(紛らわしいので、今はバンダナを巻いていないけど、バンダナと呼ぶことにします)
…へえ!
バンダナは、そのワドルディに近づいた。
その横に、腰を下ろす。
…ワドルディがこんなところで一人で昼寝してるなんて。
昔は考えられないことだった。
...のどかになったよなあ
そんなことを思いながら、その寝顔を見つめる。
◆
がれきに頭から、突っ込んだ彼は、体中を激しく打ってしまった。
体重があることもあって、かかった衝撃があったのだろう。
乱暴者たちとのケンカでは、かすり傷ひとつなかったのに、なんとも間抜けな話だった。
「…」
むすっとした顔のまま、彼はおとなしく包帯を巻いてもらっていた。
申し訳なくもあったが、手当をすることができて、お礼をさせてもらうことで願い叶ったりとなった。
出来たカレーをご飯の上に注ぐ。
「ボク、けっこう料理には自信があります」
「ふーん」
「」
が、一口を食べた彼は、はっと目を開いた。
「ね!おいしいでしょ?市販のルーではなく、スパイスから作ってるんです。らっきょうも福神漬けもありますよ!それから」
早口でまくしたてる彼の言葉を聞いていた彼は、
「ええい、いっぺんに色々言うな!どれに答えていいかわからんだろう!!」
と、突然立ち上がって、怒鳴った。
呆気にとられたワドルディは、
「確かにそうですね!」
と笑った。
「すみません。誰かと一緒にごはんの食べるの、久しぶりで。つい、はしゃいでしまいました」
それを聞いて、彼は一瞬こちらを見た。
でも、何も言わず、カレーをかきこんでしまうと、
「おかわり、あったらくれよ」
と皿を突き出した。
◆
「嬉しかったなぁ」
バンダナは呟く。
「最近は、料理担当のワドルディ達が作ってるからね。ボクが作ることは、なくなっちゃったな」
今でも、作ったら食べてくれるかな。
そう思いながら、空を見上げた。
…でも、あれがすべて、迷惑だったら?
彼はさっと、血の気が引くような気がした。
それまで彼をふわふわさせていた幸せな気持ちが、霧散していく。
自分がしたことは、もしも自分だったらきっと嬉しいと思ったかもしれないけど、
実のところはどうだったんだろう。
しつこいやつだな、って彼は言っていた。
照れてるんじゃないかと思っていたけど、言葉通り、本当に鬱陶しかったのだろうか。
ああ、そうかもしれない。
追いかけられて、迷惑をしていたのかもしれない。
「…っ」
彼と同じく部下のポピーシニアは、よく彼に憎まれ口をたたいてきた。
『おいチビ。健気なイイ子ちゃんもほどほどにしとけよ!?独りよがりは見てて痛々しいぞー!』
と彼はよく彼をバカにしていたが、ワドルディには意味が分からなかった。
自分は何も間違ったことはしていないと思っていたからだ。
…独りよがり。?…
何もかも、自分だけが、役に立てている、喜ばれていると思っていて、
大王さまは、全然違ったということか。
本当は嬉しくなかった。喜んでいなかった。
皆は、それを離れたところから見て、独りよがり。そう思っていたのだろうか。
「……。」
そう思っていると、とても惨めな気持ちになってきた。
何をしていたんだろう。自分は。
何のために、がんばってきたんだろう。
ハッと見ると、さきほどまで昼寝をしていたワドルディが起きて、こちらを見ていた。
「わにゃにゃ?」
おにいちゃん、どうしたの? と言っている。
「わにゃ…にゃ…?」
なにか、かなしいことがあったの。
心配そうに、眉をハの字に下げている。
「ありがとう。きみは、やさしいんだね」
バンダナはそういうと、そのワドルディの頭をよしよしと撫でた。
「わにゃ、わにゃにゃにゃにゃにゃわ??」
…もしかして、あなたは”ばんだな”さん?
「えっ」
バンダナを巻いていないのに、どうしてそんなことを言うんだろう。
「わにゃ!」
(ここからは、わにゃ語を翻訳してお送りいたします)
『よくわからいけど、なんとなく!!』
「…そ、そう?」
『ぼくのおとうさんと、おかあさんがね。
よく、でででだいおうと、ばんだなさんのはなしをするよ!
むかしはここは、こんなにあんぜんじゃなかったんだ。
だいおうさまのおかげなんだって。
そのだいおうさまには、ばんだなさんという、
ワドルディの中でも、つよくて、かっこよくて…すてきなひとがいつもついてるんだって!」
「!」
その子供は、バンダナワドルディのことを、頭にバンダナを巻いていることではなく、彼をそういう名前だと思っていたのだ。
だから、彼を見て、話に聞くばんだなさん、だと思ったのかもしれない。
「ばんだなさんみたいに、ぼくは、なりたいっておもってたんだ!
いつか、ばんだなさんに、あってみたい。そうおもっていたから、きっと かみさまが かなえてくれたんだ! ぼく、いつもいいこにしてるもの…!!」
子どものワドルディはそう言って、ピョンピョンはねた。
「そうなんだね。…でも」
バンダナは、思った。
…ボクは、そんな、すごいなんて言われる人じゃないんだ。
だって。
『俺は、お前が きらいだ』
大王の言葉を思い出し、涙が溢れそうになって、ぐっとこらえた。
「…ごめんね、ボクは、ばんだなさん じゃない。君が会いたかった…その人じゃないんだ」
「…えぇ!?」
子どもは、そんなバカな!とばかりに目を丸くする。
「ボクは、デデデ城で働いている、ただのワドルディだ。」
「え、うそだ!…ほんとに、ちがうの?」
「うん、ほんと」
バンダナは、笑顔でそう言うと
…ボクは、こんなに簡単に、嘘をつくようなやつじゃなかったのに。
変わってしまったな。
そう思った。
とてもがっかりしてしまったのか、子どもは泣き出しそうになっていた。
「わあん…そうなのかぁ~…」
「…ごめんね」
そんなにがっかりするほどだったなんて。
バンダナは苦笑いをする。
「でも、大王さまと、バンダナさんのことはよく知ってるよ。
きっと君なら、彼よりも、ずっと素敵なワドルディになれるはず。
大きくなったら、デデデ城へおいで。一緒にお仕事しよう」
「うん!」
子どもは、先ほどの泣き顔が嘘のように満面な笑顔をつくる。
「おにいちゃんは、でででだいおうさまのところで、はたらいてるんだもんね!?」
彼は、目を輝かせている。
「まあね」
彼は微笑んだ。それは嘘じゃない。
「ねえ、おねがい!!パパとママにも会ってお話をしてよ!
きっと、デデデじょうのおはなし、聞きたがるとおもうんだ!」
「え?そ、そんな」
子どもにぐいぐいと腕を引っ張られ、彼はついていくことになった。