星咲く宇宙を君と
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【小説】バンダナワドルディの休暇
◆バンダナワドルディの部屋
ワドルドゥは、お酒やお菓子が入ったビニール袋を持って、バンダナワドルディの部屋の前にいた。
ノックをする。
「バンダナくん、わたしだよ。入っていいかい」
「…」
長い間があって
「ドゥさん。どうしたの」
「こっそり僕らでお祝いをしようと思ってね。大王さまが、カービィのライバルを続けることにしただろう。それで、ね」
「…」
「ありがとう。でも、今日は、いいや」
「ん?」
ワドルドゥは思った。
…へんだな。あんなに喜んでいたのに
「まあ、いいか。入るよ」
そして、かまわず、ドアをあけた。
キイイ…
「…?」
すぐに目に飛び込んできたのは、外してそのままテーブルに置かれた、彼がいつも愛用しているバンダナだ。
ふと、ワドルドゥは、彼が同じく愛用している、赤いリボンをくくった槍を見つける。
折れていた。血がにじんでいる。
「…」
彼は、視線を、バンダナワドルディが入っている分だけ膨らんだベッドの布団に移した。
ワドルドゥは、この、デデデ大王がカービィのライバルを続けるかやめてしまうかについて悩んでいた一件について、一つ一つ思い出していた。
バンダナワドルディがデデデ大王と話したことを言っていた時、どんな顔をしていたか。
大王がカービィを背負って戻ってきた時。どんなに嬉しそうに、彼の看病を手伝っていたか。
が、その後だ。
会った時に、彼はいつも通りニコニコ笑っているものの、どこか様子に影があった気がした。
その時点では、なにも尋ねることができなかったのだが。
同じ城で働く仲間として、長年この一心に大王に付き従う一人のワドルディを見つめていたワドルドゥは、
なんとか彼の話を聞きたいと思って、お酒とお菓子を持ってやってきたのだった。
いつからか、彼が自分の個性と象徴として身に着け始めたバンダナ。
それからずっと大事にしていたその布を、こんなに無造作に置いていたことがあっただろうか。
この折れた槍と、血のあとは、どういうことなのだろう。
いったい何があったのか。
そう思いながら、ワドルドゥは持ってきたビニール袋をテーブルに置くと、その中から1缶コーヒーを取り出して、
ベッドの膨らんだーワドルディが入っているー部分の隣に腰を下ろした。
「一杯失礼するね」
そう言ってプシュッと、タブを開けると一口飲む。
お酒も持ってきていたが、今回コーヒーにしたのは、お酒が入ってしまうと、彼の話を冷静に聞けないかもしれないと思ったためだった。
そのまま数分静かになって。
布団の中から、声が聞こえて来た。
「…大王さまが、ボクのこと きらいって 言ったんだ」
喉に引っかかりそうな声だった。
「えっ」
ワドルドゥは、もともと丸い、大きな目を一瞬さらに丸くする。
ケンカでもしたのだろうか。
しかし、彼らが問題にしていたのは、カービィのライバルを続けるかやめるかという話だったはずだった。
いったいどうしてそうなったのだろう。
ワドルドゥは缶を置く。
彼の話の続きを待つことにした。
「風邪を引いて熱を出したカービィを大王さまのお部屋へ連れて行って
氷が無くなったから、代えて来ようとボクだけ部屋を出たんだ。
大王さまは、てっきりそのままカービィのお世話をしているものかと思ってたんだけど…戻ったら、部屋の前で座って泣いてたんだよ。
カービィに何か言われたのか、喧嘩でもしたのかなと思って、
話を聞いてみると、ライバルはやめたくないって言うんだよ。」
感情的になっているのか、話はすこし支離滅裂になっている。
「塀の高い所から、飛び降りるんじゃないかと思ったから、ボク、どうしたらいいのかわからなくなっちゃって。
そうだ…ボクは、ボクのことしか言えないんだと思って、自分が思っていることを全部伝えたんだよ」
ワドルドゥはそのままじっと布団の膨らみを見つめている。
「あなたのことが大好きだって。どこへでもついていきたいけど、一緒に死ぬのはいやだって。
あなたのことを覚えていたいって。
あなたのしてきたこと、一体何が悪いんですかって。
そしたら、ボクのことは…きらいって。大王さまは、自分はボクとは違うって。」
そこまで聞いて、
「君と大王さまが…違う?」
ワドルドゥが、彼の言葉を繰り返した。
「うん。お前はまぶしいから、正しいから、きれいだから、自分とは別の生き物だと思ってたって。」
ワドルドゥは、先ほどの、彼が無造作に投げてきた言葉の断片を並べて、
彼らのやりとりを想像しようとしていた。
「まぶしい、ただしい、きれい…」
ふむ、と、彼は呟く。
そのまま、続きを待つ。
「確かに、大王さまは、天邪気なところがあるよね。お前なんか嫌いだって言ったって、傍から見ると本当は違うでしょって思うことが多くて。特に、カービィに対してね。
でも、そういう時は腕を組んでそっぽを向いたり、怒ったりして、わかりやすいんだよね」
「たしかに」
ワドルドゥは頷く。
「でも、ボクは、さ。
そんな彼に、あんな…、嬉しいのか悲しいのかわからない顔で、ぼろぼろ涙を流しながら、
ずっと言いたかったけど、言えなかった、やっと言えた…みたいな声で、
きらいだ って言われちゃったんだよ」
きっと、長年付き合ってきて、初めてみる姿だったのだろう。
会話の全貌はわからなくても、彼が驚く様子と、戸惑う様子、ショックを受ける様子が、なんだか容易に想像できた。
「…」
ワドルドゥは、腕を組んだ。
バンダナは、だんだん腹が立ってきたのか、すこし棘の立った声で続けた。
「まぶしくて正しくて綺麗?意味が分からない。そんな奴、いるわけないじゃないか。ずっとボクがそんなだったっていうの?
ボクがずっと正しいことをして、綺麗な行いだけして、大王さまにとって嬉しいことばかり、できたとでも思うの。
失敗だらけで、至らないところだらけで、申し訳ないくらいなのに。
大王さまには、ボクはいったいどんな風に見えてたの…?」
彼はシーツを握りしめたらしく、しわが刻まれた。そのしわも、布団の膨らみも、小刻みに震える
「そうか…。大王さまが、そんなことを、言っていたなんてね」
ワドルドゥが、淡々と呟く。
その声は、意外だと驚くようでもなければ、そうなんじゃないかとなんとなくわかっていたよ、と腑に落ちたものでもない。
彼自身にも、長年大王と付き合ってきて、見て来た姿とは違うものに思えたが、
それがどこか納得できるものにも思えるのだ。いつかこうなる可能性があったのではないか、と。
そんな思いを抱きつつ、ただ、二人の間に起きた出来事を、じっくりと見極めているようだった。
「しかも、それで、好かれていたならいいよ。綺麗だから、正しいから好きって。
でも違うんだ。
大王さまは、ボクのこと嫌いだって思ってたんだよ。
鬱陶しかったのかもしれない。迷惑だったのかもしれない」
「…バンダナ君。それは、」
ワドルドゥは、口をはさんだ。
それは、まだ自分で答えを見つけるには、ヒントが少なすぎやしないかい。
君自身も、まだそうできる状態じゃないんじゃないのかい。
そう言いたかったが、ワドルディは遮るように続けた。
「別に、大王さまにボクを好きになってくれとは言わないよ。思ってなかったよ。
だけど、せめて嫌いにはならないでほしかったんだ。嫌われたくなかった。
役に立っていたかった。傍にいることをゆるしてくれるだけでよかったんだ」
「…」
ワドルドゥは、なにも言わず、頷く。
「今言うと笑っちゃう話だけど、ボクは、ボクほど大王さまを愛してる人はいないと思ってたよ。
ボクは自分に自信を持っているタイプだとはとても思わないけど、それだけは、確信があったんだ。昔は何もできなかったけど、今は違う。カービィやメタナイトさんと一緒に戦えるし、旅のサポートもできるようになった。絶対、昔よりは大王さまの力になれてるって、信じてたんだ。誇らしかったんだ」
「だけど大王さまが、カービィには俺しかいないって、言った時。
大事そうに看病してる様子を見ていたら、
そのことを思い出すと、まるで、自分はカービィしかいらないって言ってるみたいに思えてきてさ。」
「え?」
「それが、つまり…ボクはいらないって言ってるように思えてくるんだ。」
「!そんな…」
ワドルドゥは驚いて、何かを言いかける。
いや、待てよ。
まずは最後まできくべきかもしれない。
彼には、今、思っていることを、すべて話しきることが必要かもしれない。
「…ボクは、いったい何を間違っていたんだろう。これから、どうしたらいいんだろう」
彼は続ける。
「ボクはこのまま、大王さまに使えていていいの…?
そばにいて、いいのかな…?」
そこまで言うと、布団の中からうううっと、嗚咽が聞こえて来た。
ワドルドゥは、たたまれていたもう一枚の毛布を持ってくると、上からかぶせた。
布団の膨らみを、ぽんぽんと、柔らかくたたく。
嗚咽が、泣き声に変わってしまった。
「…確かに、無理もない話だと思うんだ」
ワドルドゥは、布団越しに彼の背中を撫でながら、語りかける。
「わたしは、君がどんなに大王さまを尊敬しているか知っているし、どれだけ努力してその力を得たかも知ってるからね。当然、君だって、何も力がなかった頃より、今の方が大王さまに必要とされるはずだと思うよね…。もし、そうではなかったと知ったら、納得がいかないだろう?」
「…うん。うん…うん」
ワドルディが泣きながら何度も頷く。
「…ボクだって、大王さまのこと、嫌いになっちゃいそうだよ…。
ケンカ馬鹿で、四六時中カービィカービィって言ってて、自分勝手で、わがままで、子どもっぽくて、泣き虫で、素直じゃなくて、それから、それから…」
「…うん、それから?」
「…強くて、かっこよくて、男らしくて、本当は優しくて、頭もよくて、か弱い人を見捨てないし、紳士だし、皆のことが大好きで…ええと…。」
そこまで言うと、彼はまた「うわああん」と泣き出してしまった。
「はは、そんなに無理して悪口をいうことはないんじゃないかい」
ワドルドゥはなだめた。
「ボクも、城の皆も、こんなにも大王さまのことを大好きなのに、あまり信じて下さらない」
「それは、そうだね」
「だから、ボクも、…大王さまなんか、だいきらいだーッ!!」
ワドルディが叫ぶ。
「大王さまの、バーカぁあ!!」
わーわーと布団の中で、手足をバタバタさせているらしく、布団がもそもぞと変形する。
「ふふ」
その様子を見て、ワドルドゥは、微笑んだ。
慣れない悪口を言いながら、無理してその人を嫌いになろうとしている様子は、大王がやっていたそれとあまり変わらない。
「わたしはそれでいいと思うよ」
「え?」
もぞもぞしていた布団が、ぴたりと止まる。
ワドルドゥは、手をポンと叩いた。
「そうだ、君はもうずっと長い間、休みをとっていないだろう。この際、何日かお休みをもらうといいよ。」
「えっ!?」
布団の中で、ワドルディが驚いた。
「でも、…でも、そんなことして、いいのかな?」
不安そうにな声が聞こえてくる。
ワドルドゥは、厳かな雰囲気を作ると、
「いいもなにも。仕事っていうのは、人を喜ばせることだ。自分が健康な状態で行うからこそ意味があるんだよ。
今の君は、そうじゃないだろう」
「いや、でもね…けっこう普段色々やってるものだから…ボクがいないと、色々、問題が」
しどろもどろに彼が反論する。
「ふふ、わかってるよ。まあ、あとのことは、わたしとポピーでなんとかするさ。
大王さまも子どもじゃないんだ。自分の身の回りのことぐらい、しないとね。
たまにはいいだろう?そういうことがあったって。」
「…」
ワドルディは、布団の中で、考えているようだった。
「…君は知らないと思うけど、君が思っている以上に、大王さまはとても感謝しているんだよ。
君が毎日自分の傍にいて、支えてくれることをね。」
「…え?」
ワドルディは、そういえば、大王が自分に感謝しているとも言っていたことを思い出した。
同時に自分を「きらいだ」とも言っていたため、その思いは複雑だったが。
「へえ、ドゥさんには、そんな話をするの?ボクには、城の皆を一人一人どう思ってるかなんて、話さないのに」
彼は、すこし拗ねたような口調で言いながら、布団から這い出て来た。
泣きはらしたのか、目が真っ赤だったが、
ワドルドゥは顔が見られてよかったよ、というように、ふふ、と笑った。
「そうだよ」
こういう時、彼は特に多くは答えず、笑ってすませてしまう。
ワドルディは、ため息をついた。
でも、彼は思った。
このまま明日を迎えても、大王にどんな顔をして会ったらいいかわからない。
今までしてきたように、朗らかに、明るさと思いやりを持って、彼に接することが難しいかもしれない。
いや、やろうと思えば、できるとは思うのだ。今までもそのくらいのことはしてきたのだから。
しかし、今は…本当は嫌いだと思いながら自分に無邪気に笑顔を向けていた彼を思うと、なんだか許せない気持ちになってくるのだった。
許せない…というのは、誰をだろうか?
そんなことをさせてきた自分自身?それとも、いつも本音を言っているように見えて、それを自分にうまいこと隠してきた大王だろうか?
せめて、それをはっきりさせたいなと思った。
ここは、長年の付き合いの仲間を、頼ってみるのもいい機会かもしれない。
「ドゥさん。…ボク」
ワドルドゥは、ゆっくりと、頷いた。