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​【小説】バンダナワドルディの休暇

◆デデデ城、ワドルディ達の休憩室

 


ワドルドゥは、ワドルディ達と休憩をしているところだった。

彼は、ワドルディ達の質問に、一つ一つ答えていた。

今は、一人のワドルディからの、『大人になるとはどんなこと?』、という質問に、彼なりの解釈を語っていたところだった。

「自分の行動に責任を持つことだと私は思っているよ。君たちも最初は、人の決めたことに従って、そのひとから良かった、悪かったと評価を受けると思うんだ。でも、それを徐々に、自分で決めて、自分の目的のために行動を起こすようにしていくん…」

 

 

「おーい、目玉ァ!」

彼の話を中断するように、ドアを開けて飛び込んできたのは、ポピーブラザーズシニアだった。

ワドルドゥは、ワドルディたちに言った。

 


「…あれは、まさしく”こまったおとな” の典型的な例だね。

仕事において、礼儀はとても大切だ。きみたちは、仲間にあんな失礼な呼び方をする大人にならないようにね」


そう言って、ニコニコと笑うワドルドゥと、こくりと頷くワドルディたち。彼らの様子を見ていたシニアは、頬を膨らませて、抗議した。

 


「えー?オレ、めっちゃいい大人なのよー?お前らには、寧ろ見本にしてほしいんだけどなぁ」


その様子に、ワドルドゥはゆっくりと首を振り、ワドルディ達が、わにゃにゃと笑う。

シニアは、はっとすると、

 


「そうだった。なあ、やっぱ出て行ったのか?あのチビ」

自分の本題をぶつけてきた。

チビ、とはバンダナワドルディのことだった。

彼は、ドゥのこともそうだが、城の仲間に勝手にあだ名をつけており、まともに名前を呼ぼうとしない。

 


「出て行ったんじゃないよ。彼は休暇中だ」

 


「でも、いつ帰るかってのは、決まってないんだろ?」

 


「大王さまには、一週間ほどとお話しているよ。まあ、それより早いか遅いかは彼の決めることだけどね」

ドゥは事実だけを答える。

 


シニアはいぶかしげにドゥを見ていた。


「それってさ…お前、一週間過ぎたら『あれ、おかしいですねぇ』って笑って、一か月過ぎても同じように笑って、…そうやってるうちに、一年、3年…って過ぎるパターンじゃねーの?その結果、気づいたらあいつは出てってました!ことになるやつじゃねーの??」


そう言って、お前ってそういうやつだもんな!と青ざめながら指をさした。

 


「なるほど。そういうやり方もあるのか。もし彼が帰って来なかった時は、そうしようかな」

ドゥは飄々と返した。

 


「はあ!!?マジかよ…?

あーあ…いよいよこの日がきちまったのかぁ。やっぱアレだろ。大王さまが、カービィにばっかかまけてるからなんだろ?」

 


「うーん。そうなのかな?それは、割と昔からだった気がするけどね」

ドゥは、彼の疑問を笑って返す。

 


「じゃあ、あれだ。大王さまが、お前はいらない、ウザいってとうとうあいつに言っちゃったやつなんだ…?」

口を両手で抑えながら上目づかいでおそるおそる、という様子でシニアは言う。

それを聞いて、ドゥは、ん?と思った。

 


「…とうとう言っちゃった?それはどういうことだい」

彼の言葉を繰り返す。

シニアは、何か知っていたのだろうか。

 


彼は嬉しそうに笑うと、


「知りたい? オレのこと、今後一切、ポピー様って呼ぶんだったら教えてやってもいいぜ!」

 


「あー…、そこまでして、知りたくはないかな」

 


「ちぇ。そんなこと言うなよ」

 


「バンダナ君のことを、いらない、ウザいというのは、大王さま本人が言っていたことなのかい?」

彼の尊大な条件は無視して、ワドルドゥは尋ねた。

 


「まさか。あの人、あいつのこといっつも気持ち悪いくらいべた褒めなんだぞ?

それはオレが思ってんの!」

 


「君の私情か!紛らわしいことを言わないでくれ!!」

ドゥは呆れて、シニアの肩をバシッと叩いた。

 


「いやさ、あの人、バンダナには、本当はどうして接していいかわからないんだって。

何かしようと思っても、あいつは遠慮するらしいんだ。喜ばせたいって思うじゃん?でも、大丈夫ですって言われると、『そうか…』ってそれ以上何も言えなくなっちゃうらしくて。

自分ばかりあいつに世話になっていて、対等じゃない。おれさまどうしたらいいだろうかって、悩んでたワケ。」

 


「そうだったのか」

 


これまた、ワドルドゥや、バンダナが大王と接してきていた姿とは別の一面が見えてきた。

大王は、なぜかポピーシニアには、こうした影の部分を話すことがあるのだ。

このお調子者は、いい加減で、自己中心的で、大王の座を狙っているなどと豪語するやつなのに、ワドルディ本人はともかく、自分よりも、このシニアに…というのが彼にとっても謎だった。

バンダナが聞いたら、きっと納得がいかず、腹を立てるだろうなと思ったが、とりあえず貴重な情報だったので、このまま話を聞いてみることにした。

シニアは話を続ける。

 


「この前なんかさ、健気にも、あいつに日ごろの感謝の気持ちを伝えるべく、花束を贈ったらしいんだよ。そしたら、それが全部ピンクの花だったから、チビのやつ『カービィのことが大好きな、大王さまらしいですね』って嫌味を言ったそうでね。大王さまは、花言葉に感謝を選んだら偶然そうなっただけで、カービィのことは一切関係なかったのにって…涙目だったんだけど、お前その顔想像できるか?傑作だぜ?」

シニアはその時のことを思い出して、笑い転げていた。

ドゥは彼が何を面白がっているのかさっぱりわからないし、大王さまが悩んで泣いているのに笑うなんてと激怒するバンダナの姿が浮かんだ。そんな調子で、シニアとバンダナはよく言い争いになっていたからだ。

 


「それは、嫌味…だったのかな?彼の性格を考えると、そうではないと思うんだが、大王さまはそう思ってしまったと…?」

 


「ん~にゃ、それもオレが思ったの」

 


ドゥは、無言で彼の頭を殴った。

 


「いやーだってさ。男ってのは、やっぱ女のコに頼られてこそ本領発揮って言うか。自尊心とか、プライドが満たされるところあるじゃんか?まあ誰かさんみたいに女々しいやつもいるけどさ、大王さまは男前じゃん。そいでね、」

ワドルドゥは、彼の言葉を遮った。

 


「ごめん、何を言ってるのかよくわからない。男と女がなんだって?

彼らは上司と部下だよね。もっと言えば、男同士の。なんでそういう話になったんだ?」

 


「え?似たようなもんでしょ。だって、あのチビはデデデ城を、家族だってのたまってんだぜ?

そしたら大王さまが父親で、側近のあいつはその奥さんみたいなもんじゃん」

 


「うん…うん。…うん?」

ドゥは話を聞けばきくほど、わからなくなってきた。

ワドルディたちに目を向けると、彼らもきょとんとしていた。

 


「お前知ってるか?がんばって尽くしすぎて、旦那をまったく頼りにしない奥さんだとさ、旦那が自尊心を少しずつ削られていって、浮気に走りやすいんだぞ」

シニアがニヤニヤしながら話を続ける。

 


「はぁ…」

ドゥは呆気に取られる。もし彼に口があったら、口をポカンと開けている状態だ。

 

 

「つまりさ、昔はあいつが頼りなくて、何かあるとすぐ大王さまぁって泣きついてたわけだろ。それが、実は大王さまにとってはけっこう可愛いものだったわけ。おれさまがこいつを守ってやらなきゃって、まあ、ここにいる意味っつーか…居場所みたいなもんだったんだよ。

それが、槍の特訓でむちゃくちゃ強くなっちまっただろ。あいつは皮肉にも、大王さまのためにって強くなりすぎたことで、大王さま本人は、おれさまここにいなくていいんじゃね…?って、プライドを無自覚にガンガン削っちまったんだよ」

 


「うーん…え??」

ドゥにとっては、例えや言葉がぶっとびすぎていて、ついていける気のしない話だった。

が、わからないなりに、興味深くもあった。やはり、最後まで聞きたいという気持ちは変わらない。

もう一度ワドルディたちを見ると、彼らも真剣にシニアの話に聞き入っている。

 


「最初はカービィに対しても、あの人の負けず嫌いの性格から、悔しー!次は負けねーぞー!!だったと思うんだけどさ、

あいつ、よそ者だし、何でも吸い込んじまうし、大食いだし、実のところ、皆怖がってるところあるだろ。なじめないからか知らないけど、大王さまに、ちょくちょくちょっかい出してきてたじゃん。

そのうちに、あいつがだんだん可愛くなっちまったんだと思うぜ。

そんな中で、可愛い部下だった側近が強くなって、ここに自分のいる意味があるのかなと思った大王さまは、あのピンク玉への憎しみが情に変わっちまって、こいつには俺しかいない…じゃなかった、俺を頼りにしてくれるやつは、こいつしかいない!…って、そうなったんじゃねーかなとオレは思ったわけよ」

すげーだろ、と、子どもが見つけた宝物を自慢するように、彼は胸を張ってそう言った。

 


「うーん…んん…」

腕を組んだドゥはうなると、

 


「…つまり、今、大王さまがカービィに、俺はあいつのライバルだって肩入れしてるのが、実は、今まで自分を頼ってくれていたバンダナ君が強くなりすぎて、ここに自分の居場所がないと思うようになったせいだっていうのかい?」

と、自分の受け取った内容を繰り返し、確認した。

 


「まあ、あいつのせいって、そう言いきっちまうのはなんか気が引けるけどな。だって、良かれとおもってやってたことには違いないし。まあ、でもその通りだろ?オレたちは別に昔っから、大王さまに対して何も変わってないんだから」

 


ワドルドゥは、考え込んでいたが、


「完全に一致するとは、まだいいかねるけど、面白い話だと思う。

…ねえ、ポピー。もし、仮にその話が、今回の二人の問題があてはまるとすると、いったいどちらがどうすれば、解決するんだろうか」

と、彼に尋ねた。

 


「えー?」

シニアはもったいぶった。

 


ワドルディ達も、わくわくしながらその視線を彼に向けている。

おお、なんだかオレに注目が集まってるじゃねーか。

シニアは、ニヤニヤした。

 


「そーねぇ。解決ってのが、二人にまた仲良くしてもらうことだとすると。

大王さまはもう、本人ががんばって変わろうと思っても、あんまり変えらないでしょ。

やっぱチビのやつが、あのクッソ健気ないいこちゃん、やめたらいいんじゃねーのかな」

 

 

「健気ないい子ちゃんをやめる、とは、どんな感じかい?」

 


「んー…ありのままでいる ってこと だな」

 


それを聞いたワドルディ達が、おーっと歓声を上げて、拍手をした。

 


「!」

ワドルドゥは驚いて振り返った。

どうやら彼らは、シニアの話に感動したらしい。

 


「おおっいいじゃんお前ら、気が利くね!?もっとくれよ!ポピー様を、もっと崇めろ!」

 


ワドルディー達は顔を見合わせると、ぴたりと拍手をやめた。

 


「おい!!?なんでやめたの!?」

 


ワドルドゥは呆れつつ、しかし、まっすぐシニアを見つめた。

 


「不思議だね。いつも君とは全く意見が合わないのに…導き出した結論は、一致することがある」

 


「ハァ?スマシ目玉ちゃん、もっとわかりやすくお話してくれませんか?」

彼の話し方が気に入らないシニアは憎らしい顔を作って、挑発してきたが、ドゥは構わず続ける。

 


「彼は忠誠心をとにかく大事にし、大王さまを敬ってきたのだけど、大王さまからは、兄弟や…それこそ家族のような、心から頼って、一緒に助け合っていきていく関係を望んでいたのかもしれない。

だから、君の言う通り、彼はもっと、ありのままになれたらいいなと、私もそう思っていたんだよ」

 


シニアは驚いた顔をして数秒ドゥを見ていたが、

 


「げ~っ マジか!? お前と意見が合っちゃったの?うえぇ~ゲロゲロ…」

彼は吐くような恰好をして、あからさまにイヤそうなリアクションをしたが。ドゥは気にせず続けた。

 


「君も、なんだかんだで、皆のことを考えているよね。

でも、バンダナ君にはさ、そんな意地悪な言い方をするより、ストレートに伝えた方が、きっと仲良くなれると思うよ」

 


「冗談じゃない。オレは、あいつみたいに人を喜ばせて自分も嬉しいウフフって性格じゃないんです。あいつのことは嫌いだし、仲良くなんて御免だね!」

シニアはそう言い捨てると、部屋を出ていってしまった。

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