星咲く宇宙を君と
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【小説】初めての仕事
ポピージュニアは緊張していた。
3時のお茶の時間は、バンダナワドルディが担当していて、
紅茶をいれたり、お菓子を用意しているとのことだった。
…落ち着くんだ、僕。
できるよ。バンダナさんが言ってたとおりにやろう。
わからないことは、勇気を出して、大王さまに、聞くんだ。
はじめてのことなんだ。わからないのはあたりまえ。恥ずかしいことじゃない。大丈夫。
『お茶の時間にはカービィが遊びに来ることがあるから、お菓子は多目に買っておくんだ。ケーキは余分に1つ買っておく。』
紅茶の入れ方がわからず、大王に聞こうとすると、彼の方から教えてくれた。
それまでは、恐い人かもしれないと思っていたデデデ大王が、一つ一つ説明してくれたことにとても驚いて、ジュニアは言われたことをメモしていった。
「すぐにできるようになる。心配しなくていいぞ。もし失敗したって何も気にすることはないからな」
「ありがとうございます」
ジュニアはメモをポケットにしまった。
大王の言葉をきいて、安心したのだった。
兄のシニアとともにこの城に長く勤めている、ポピーブラザーズジュニア。兄とは違ってあまり大王と直接話す機会がなかった彼は、バンダナさんがあんなに好きになるのはこういうことなのかなあ、と少し思った。
バンダナさん、僕もがんばるから、ゆっくりしてきてね。
彼は胸に手を当てて、そう心のなかで呟いた。
ひねくれ者の兄、ポピーブラザーズシニアが意地悪なことを言っても、自分には他の子と同じように接してくれるバンダナワドルディのことが、彼は好きだった。
「いただいてまーす」
いつの間にか入ってきていたカービィが、今日のお菓子だった抹茶ティラミスを口に頬張っていた。
「ちょっと苦いかなぁ」
「カービィ!!」
大王が怒鳴り声を上げた。
「言ってるだろ、城門から挨拶して普通に入ってこいと。そうやって勝手に食べるんじゃなくて、お茶しに来たと言えと。そうすりゃこっちだって菓子ぐらいは用意しておくんだ」
「それって、もう一個用意してるってこと?わー、さすが太っ腹ー!」
「ええい、なんでそうなるんだ!!お前は今おれさまの分を食っただろうが!!!」
バンダナさんが言ったように。
カービィがやってきた時は、だいたいいつも、大王さまのお菓子を勝手に食べてしまうんだよ。
その時は、彼が帰ってから大王さまに予備のおやつをあげるんだ。
もういちどお茶を淹れてね。
なんだかんだで、大王さまはカービィが来るととても楽しそうなんだよ。
楽しそう?そうかなぁ?
あんなに怒ってるのに…?
ジュニアには、よくわからなかったが、よく観察することにした。
カービィはジュニアをじっと見てから、
「そうそう、ワドルディにお休みをあげたんでしょ。素敵じゃない」
カービィは当然のことのような流れでデデデの紅茶のカップをとると、一口のみながら、そう言った。
「それおれさまのお茶…」
大王が指差して呆然と呟く。
おっと、大王さまのお茶がなくなってしまったぞ。
ジュニアはあわてて、もう一度お茶を淹れた。
ついでにもう1つカップを出して、カービィにも淹れる。
「はい、カービィの分。ごめんね、まだよくわかってなくて、バンダナワドルディさんほどうまく淹れられていないと思うけど」
「わあい、どうもありがとう!ポピージュニア!」
カービィは大喜びでカップを受け取った。
「確かに、ワドルディが淹れたのと、ちょっと香りが違うね」
「お前にわかるのかぁ?そんなこと」
「あたりまえだよ。こうして長年お茶をもらってるんだから」
「もらってるというか、奪って勝手に飲んでるよな…」
「細かいこといわないの」
「それで、ワドルディには、何日お休みをあげたの?荷物が大きかったから、旅行するんでしょ。急いでたし。
お土産買ってくれるだろうなぁ。楽しみだなぁ…!!」
「大王、きいてる?」
大王の様子がおかしい。
「違う。何日やるもなにも、今日から休みますと他の仲間に伝えて出ていってしまってな。」
「えっ…そうなの」
カービィは目を丸くした。
彼と会ったときのことを思い出す。
「じゃあ、大王をよろしくって、どういう意味だったんだろ…?」
彼は呟いた。
「なんだ、あいつ、お前に会っていったのか…!?」
大王が、座っていた椅子から立ち上がる。
机とカップが揺れた。
カービィは、驚いてその様子を眺めてから、
頷いた。
「うん。来たよ。ぼくが釣りをしてる時に来て、しばらく話をしたあと、いかなきゃって、走っていったんだ」
「どんな話をしたか、ききたいんだが。」
大王は神妙な顔をして言う。
カービィは、考え込むと、ジュニアを見た。
「ね、ジュニア。ぼく、もっとお菓子がほしいな。何か買ってきてよ。できればイチゴのショートケーキがいい!」
カービィはにこにことおねだりをする
。
「え、え…あの?」
ジュニアは大王とカービィを交互に見た。大王はあっけにとられていたが我にかえると、
「おいカービィ!部下に命令するのはおれさまなんだ。お前がそういうことをしちゃいかん。
ジュニア、話の通りイチゴのショートケーキを、買ってきてくれ。おれさまの分はいい。こいつの分な」
「ショートケーキだからね。ムースのケーキに似たようなのがあるから気をつけてね」
カービィが念をおす。
「はい、行ってきます!!」
「気をつけてな!焦らんでいいぞー!」
大王が声をかけた。
ジュニアが去ったあと、
「彼は大王のことが好きで今までずっとお世話をしてたけど、きみは彼のことが好きじゃないって…そんな感じのことを言ったみたいじゃないか。それほんと?」
「…」
大王は、黙ってしまう。
カービィは、やっぱりかという空気を感じた。
「ええと、何だかわからないけど、君がね、ぼくのこと、本当は大好きなんだよって彼に言われて、うれしくなって、顔をみたくなって、来ちゃったんだよねぇ」
カービィはポッと頬を赤らめると、照れ臭そうに言った。
「なんだと!?」
大王はまた椅子から立ち上がると
「そんなことはあいつが勝手に思ってるだけだ!お前は、憎きライバルだし、敵だ!!」
「ふーん。君はライバルにも敵にも、こうしてお茶も出してケーキも買ってあげるんだ。
そうそう、この前風邪引いたとき、アイスのカップを片付けてくれてたのも、お礼を言わなきゃって思ってたの。ありがとうね」
大王はそっぽを向いていた。
「だいたい、お前が来たのも、おれさまの顔を見にじゃなくて、茶菓子が目的だろうが」
「そんなことないってぇ」
「ある!絶対にある!!」
「…だけど、ワドルディは悲しそうだったんだ。自分はここにいてもいいのかわからなくなっちゃったって。」
「…」
大王は、拳を握りしめる
「君にとっても、決してそんなことはないだろう?」
「俺にあいつはもったいないくらいなんだよ」
「え?」
「あいつは、俺を王様として敬ってきたが、俺は本当はそんなことをしたかったわけじゃない。あいつがそう決めて、
あいつはもっと、しっかりとした理想を持っていて。あいつがいたからこそ、このプププランドが今のどかな国になったのさ」
「そうなの?」
「ああ。俺はただのケンカ馬鹿だった。だが、まあいろいろあって、あいつの夢はきれいごとだとは思ったが、俺にとってもうれしい事にはちがいなかったからな。できることはしてやりたいと思ってきたんだよ。
こうして大王の椅子に今も座ってるのも、その流れでってやつだ。
だが今は、俺がいなくてもいいくらい、あいつは強くなったからな。今もあいつに傍にいてもらってもいいのかって思うのは、俺の方なんだよ…!!」
「やれやれ、なんだかめんどくさいんだね」
「あ?」
「きっと好きだから傍にいてくれるのに、どうしてそれが自分にふさわしいかどうかなんて、考えなくちゃいけないんだよ。イヤならともかく、君が本当は傍にいてほしいなら、何を遠慮する必要があるの?いてもらえばいいじゃないか」
「いや、そういうことじゃなくてな…?」
「ワドルディは大王と一緒にいる時が一番幸せそうにぼくには見えてたんだけど、君は違ったのかい」
「おれさまは…あいつに何をしていいか、わからんのだ」
「なにを、していいかわからないっていうのは?どういうこと??」
「こう、感謝を伝えるというか、あいつからも、ここで働けてよかったと思えることをしてやりたいと、そんなことをな。」
「へー、喜んでもらいたいんだ?」
「う…まあ、そういうこと だな。そうだ。」
「傍にいてもらうだけじゃ、だめなんだ? 」
「…」
大王は下を向く。
「だって、最近のおれさまは、いつも、あいつに世話になってばかりで、なんもできとらんから…どうしていいかわからんのだ…」
あ、また泣き出した。カービィは思った。
大王は、椅子に座ると拳を握ったまま、小刻みに震えていた。
「その人に何をしていいかわからなかったら、傍にいちゃ、いけないのかな?」
「え?」
「さっきのポピージュニアだって、初めて君のお世話をしてたから、何をしたらいいかわからなかったはずだよ。すごく緊張してたけど、君が教えてあげたら嬉しそうだったじゃない。」
「おれさまは、あいつとは違うぞ。
あいつはまだ若いが、おれさまはそうはいかん」
「そうかな。きみも、ワドルディにどうしていいかわからないのかもしれないけど、きっとわからないなりに、彼の望むことを見つめていけばいいと思うんだよね」
大王は、カービィを見上げた。
「そういえば、ぼくもきみのこと、最初はなんで怒ったり泣いたりするのか全然わからなかったな。今でも、わからないことばかりだ。でも、わからないからってぼくのこと、きみは嫌いになったりしなかったでしょ」
「おれさまがいつお前を好きだと言ったんだ。バンダナの言ったことは本気にするな」
大王はまだ不貞腐れている
「まあいいや。」
「ワドルディにとっても、きみが彼に何をしていいかわからなくたって、何も問題ないよ」
大王は冷めてしまった紅茶のカップを揺らしながら
「だがなぁ…しかし…なぁ」
と呟く。
でもーだってー、と繰り返す子どものようだ。
「不安かもしれないけど、信じて、待っててあげなよ。彼はきっと、君を見捨てたりしないから」
そう言うと、
「何も、心配いらないよ」
カービィは、微笑んだ。
「…」
大王は思う。
なぜ、彼の笑顔を見ると、とても悔しいのに、いつもこんなに勇気付けられるのだろう。
ふと、バンダナの笑顔を思い出した。
彼の笑顔は、優しく、温かくも、力強く大王をいつも導いてきたのだ。
彼のことが、懐かしく思えた。
元気だろうかと思ったが、同時に自分に、そんなことを言う資格があるのかと疑問に思うのだったが。
「大王さま、カービィ!お待たせしました!!ケーキ買ってきましたよ!!」
「わーい、ありがとージュニア!!お疲れ様!紅茶も、おかわりいますぐお願いね」
「はい!」
「こらーカービィ!!命令するのはおれさまだと言ってるだろうが!!」
カービィは言いたい放題言って、くつろいで、そのまま夕食まで頂くと、帰っていった。
「やれやれ。まったくあいつは。
ジュニア、疲れただろ。ありがとうな」
ジュニアは、カービィがいる間、大王の傍について雑用を引き受けていた。
大王の膝で昼寝がしたいと言えばブランケットを持ってきて。そのまま寝てしまったらソファに運んで、寝かせてやり。
起きたら夕食へ案内した。
その間あれこれと注文をつけていたが、彼は文句をいわず一つ一つ答えていった。
「そうでした。さっきカービィが食べてしまった抹茶ティラミスはもう1つ用意してあるんです。遅くなっちゃいましたけど、これから召し上がりませんか」
ジュニアが、話しかけた。
「え?」
大王は驚く。
ジュニアはお湯を沸かすためにポットに水をいれると、火にかけた。
「バンダナさんが、いつも僕にお話していたんですよ。大王さまのおやつはカービィがよく食べちゃうから、もう一個買っておくんだって。必ず、カービィが帰ったあとに出すんだよって」
大王は、
「そうか。あいつが。そんなことを」
そう呟く。
「そうだな。もらうことにするよ」
そう言って、彼は椅子に座った。
★
「大王さま、今日は本当にありがとうございました。とてもいい勉強になりました」
ジュニアはそう言うと、
大王は、うなずいた。
「大王さま。バンダナさんが戻ってくるまで、僕も精一杯お力になります。最初はご迷惑になるかもしれませんが、よろしくお願いしますね…!
」
「ああ、よろしくな。助かるよ」
大王はそう言って、部屋に戻る。
◆ポピー兄弟の部屋
「ジュニア!!」
兄のシニアが、駆け寄ってきた。
「お前大丈夫だったか!?大王のヤツに怒鳴られたり、殴られたり、パワハラモラハラ受けたり、してなかったかぁ???」
シニアは泣きそうな顔で弟に抱きつく。
「全然怖くなかったし、そんなことなかったよ。」
彼はにこにこと答えた。
「お前、肝がすわってんなぁ。さっすがオレの弟だ!!兄ちゃんは、誇らしいぞぉ!!」
シニアは感激しながら叫んだ。
いやいや、そんなに誉めるようなことじゃなかったよ。
ジュニアは思ったが、今日はとてもよい気持ちで眠れそうな気がしていた。
<つづく>
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