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追加章 ロスト・インスクライブド・メモリー
⋯これはウィリえもんとタイムライドステーション内のメモリーの中だけに残された記憶⋯
ポピ太の過去からタイムライドステーションへと戻ってきた、ポピ太とウィリえもん。
「⋯ねえ、ウィリえもん」
ポピ太はウィリえもんの座席から降りると
「さっき、記憶を消せる道具があるって言ってたよね。それ、今出せる?」
「⋯はい?」
ウィリえもんは不思議に思いながら返事をした。
過去へ戻って、当時の傷ついた自分を抱きしめたことで、彼は、自己否定のループを終え、自分を大切に思えるようになった⋯はずだ。
現に、その時間軸のポピ太は、弟が生まれたその日に⋯児童相談所へと駆け込み、弟を助けてほしいと訴え、彼自身もまた保護されるという、救済の形を得ることができたのだ。
それでも、なにか消したいことがあるのだろうか。
彼女は思いを巡らせる。
が。
「それで、今見たこと、全部忘れてくれない?」
「えっ」
ウィリえもんは、凍りついたようにその場にとまる。
彼が消したかったのは、自分自身ではなく、その場に同行したウィリえもんの記憶だというのだ。
「⋯いやさ。なんか、重かったでしょ。色々。あんなところ見せちゃって。覚えてたら君も、これから先色々辛いだろうから」
「⋯」
ウィリえもんは、
「最初からそのつもりで、一緒に過去へ行くことを同意したんですか⋯?」
そう言ってポピ太を見つめた。
「⋯」
ポピ太は答えなかった。が、
「でもさ、君のおかげでオレも、すっごい⋯『救われた』から。だって、全然違うんだぜ? 誰かに許してもらわなきゃって、機械みたいに生きてたんだからさ。この先、充分やっていけると思うのよ〜」
彼は明るく笑い、
「⋯」
「だからお願い♡その道具出して?さっきのこと全部忘れて、いつも通りの日常に戻ろうよ♡ね、ウィリえもん♡」
ポピ太はそう言って、(ちょっとあざとく)ウィリえもんに詰め寄った。
が、
「それは、いやです」
そう、彼女は静かにはっきりと答えた。
「え?」
「この時代に来て、⋯いいえ、あなたに会ってはじめて、あなたがわたしを頼ってくれた記憶です。それはわたしにとって大切なものです」
「⋯」
「でも、わたしをこのまま自由にしていたら、確かに秘密を誰かに話してしまうかもしれません。守れる保証はありません。⋯だから、」
ウィリえもんは、タンデムボックスを開ける
「⋯?」
『用済みマシン破壊スイッチ〜です〜』
お馴染みの効果音と、ウィリえもんの声が呑気に⋯しかし、すこし不気味に響く。
★
「内藤司令!大変です!!」
タイムライドステーションの司令部がざわついていた。
★
「用済みマシン⋯破壊スイッチ⋯!?」
「このスイッチで、わたしを木っ端微塵にしてください。そうすれば、あなたの秘密は守られます」
「⋯」
ポピ太は言葉を失い、立ち尽くしてしまった。
★
「司令、ユーザーが不穏なやりとりをしています!今すぐ止めなければ⋯!!」
「いや、待て武令戸(ぶれいど)くん、草土(そうど)くん。まずは様子を見よう」
★
「なんで?⋯だって、やなことは、忘れちゃったほうが楽じゃん」
「わたしがそう信じていたら、一緒に過去へ行ったりしません」
「でも⋯」
「⋯この記憶を消してしまうくらいなら、今ここで壊れたほうがましです」
ウィリえもんはそう答えた。
★
司令の隣に立っていた男が怒鳴った。
「おい、あのマシンはどういうつもりなんだ。ユーザーの見た映像は全部システムに記録されてるんだぞ。単なる媒介であるマシンを壊したところで、完全な秘匿にはならないだろう!?」
「落ち着け、馬瑠(ばる)副司令。あのスイッチにはロックがかかってる。ユーザーがスイッチを手にとってからでも間に合う」
司令官が冷静に答える。
「!」
★
「⋯そんなこと、できるわけないじゃないか」
ポピ太は、震える手でウィリえもんを抱きしめた。
「⋯ポピ太くん」
「⋯」
「⋯」
「⋯怖くないの?あんな、暗くて、こわい、記憶覚えたままで」
「はい。わたしは、ひとりじゃありませんから。それに、」
「わたしが覚えていれば、ポピ太くんも、もう、ひとりぼっちじゃありません」
ウィリえもんは、タンデムボックスを閉じた。
★
司令部のメンバーたちは、ほっと肩をなで下ろした。
「ユーザーのプロフィールに、『マシンの存在そのものに深い愛情を抱いており、⋯⋯利他的で他人や未来の道具に頼るなどの合理的思考が大きく欠如している』とある。そんな人物が、秘密を守りたいなら自分を壊せと言うマシンに従う可能性はきわめて低いと私は判断したのだ」
司令はそう伝えると、
「ユーザーは時間遡行利用時に個人情報の取扱いについての同意書にサインをしている。情報は匿名化され、管理運営上の統計等に利用されるが、個人のプライバシーは尊重されると。情報に触れる我々も、見聞きした情報を口外しない社内規律と契約があるだろう。 …読まずにサインしたのでなければ、彼は、システムへの記録については認知していることになる」
そう言って、同意書のサインを見せた。
「当該マシンは⋯『自分はお試し期間中』『この時代にとどまるには3回の役に立った実績が必要』⋯などとありもしないルールを『でっちあげて』まで、ユーザーの『声』を引き出した切れ者だ。おそらく、スイッチを押せないことも想定した上の返しだったのだろうな」
彼はそう言って、モニターに視線を移した。
「なるほど⋯」
武令戸と草土は同時に呟く。
「しかし⋯やれやれだな⋯。たとえ旧型マシン一つでも室内で派手にドカンとやられちゃたまらん。何事もなくてよかったわい」
副司令が呆れてそう言った。
「状況終了!次のユーザーの受け入れ準備にかかるぞ!」
…Thank you for reading.