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おはよう、ウィリえもん

「あーあ。最後にのこってたねーさんの形見のネジも新しいのになっちゃった。これじゃぼくも、いよいよ『テセウスのウィリースクーター』だね」

スクえもんは、未来から修理を終えて帰ってきた。
あれから何度も部品を取り替え、リフレッシュしているが、心の方は相変わらず元気だ。

彼の姉貴分だった大型ウィリーバイクのウィリえもんは、ポピスケが幼稚園に通っていた時期には、その機能を完全停止した。しかし、彼女の遺志によって、車体の使える部品は未来の他のウィリーバイクたちに使われている。
スクえもんもその一部を継承していたのだった。

「心が変わってないんだから、あなたはあなたよ」
ポピスケの母親がそう言って、

「長い間元気に走ってくれて嬉しいわ。ありがとうね。スクえもんちゃん」
彼を抱きしめた。

「いーえいえ。ぼくには重大な使命がありますから。まだまだ現役でなくちゃなの」
スクえもんはにっこりわらった。

★

「おーいポピスケ! 今日も父さんのハグが必要なんじゃないか??んんー???」

エッグトーストの朝食をとりながら向かいの席で両手を伸ばしてくる父親に、

「いるわけねーだろ!!オレもう高2なんだぞ!!てか今日『も』って何!? 昨日も一昨日もしてねーから!!!」

ポピスケは一喝した。

「そんな⋯恥ずかしがんなよ⋯俺には聞こえるんだ。見えるんだ。『パパ♡いっぱい抱きしめて♡』って両手を広げる、いたいけなお前の姿が⋯」

「いくつの時の話だバカ!! ねえ母さーん!!父さんが愛に飢えてるからハグとか色々してあげてよ!!!」

キッチンにいた母親は、はいはい♡とにこにこと食卓にやってきた。

「うわーんママ〜ポピスケが冷たいよ〜」
父親は即座に妻に抱きついた。

「あなた、ポピスケはもう一人前になろうとしてるんだから。ハグならわたしがしてあげる♡」

「ああん♡ママぁ♡♡俺にはやっぱりママしかいないよ♡」

「ったく⋯やってらんねーよ」
ポピスケは呆れながらお皿を下げると、

「母さん、いつもごちそうさま。行ってくる」
そう言って鞄を持った。

「ええ。気をつけてね」

母親は自分に抱きついている夫をよしよしと撫でながら手を振って息子を見送った。


★

「ねえ、スクえもん⋯うちの親父ほんとなんとかならない?さすがに高2になった息子に愛を求めるのはなんかの病気としか思えないよ」

「アハハ。そうだね!」
スクえもんはケタケタ笑うと

「お父さんはお父さんで、君が幸せになってほしいって思ってるんだけど、ちょっとやりすぎだよね。でも、君がこうやって反抗できてるのは、何より君の健全な成長の証なんだ。ぼくは嬉しいな」

そう言った。

「そうだといいけど。毎朝は勘弁してほしいよ、ほんと⋯」
ポピスケはため息をついた。

★

「ねえ、スクえもんスクえもん!!」

ある日、スクーターと一緒にでかけていたポピスケは、あるバイク店のショーウィンドウにディスプレイされた青い大型バイクを見つけて叫んだ。

「これ⋯そっくりだよ!ウィリえもんに!」

「うわー⋯ほんとだ⋯!」
スクえもんも驚いてバイクを見上げた。

「これ、オレにも乗れる?」

「この時代だと大型バイクの免許が必要だね。自動車のじゃ乗れないからお金かかるよ」

★

「バイトしたいだって!!?」

父親は素っ頓狂な声を上げた。

「頼むよ父さん。欲しいものがあるからさ」

「何が欲しいんだ?」

「⋯それは、秘密。」

「言えないようなものなのか?」

「⋯そういうわけじゃないけど」

「じゃあだめだ!」

「なんでだよ!?」

「学生に労働なんて!!社会は一歩でたらパワハラやらモラハラやらの巣窟だ!危険すぎるぞ!!」

母親はハリセンで父親の頭をパシンとたたくと

「自分からやりたいって言ってるのにあんまりだわ。母さんは賛成よ。やってみたらいいじゃない。でも、勉強に支障が出るならすぐやめてもらうわよ」

「ありがとう母さん!!」

「ああ、そんな勝手に⋯」

★

そんなこんなでポピスケはバイトと勉強を懸命に頑張ってお金を稼いだ。
時々、お目当てのバイクが売れてしまっていないか確認に行ったりもした。幸い、そのバイクはショーウィンドウで堂々と佇んでいた。

卒業目前。
ポピスケは給料の入った通帳を確認していた。

「どう?貯金の方は」
スクえもんがたずねると、

「⋯まだ半分⋯」
ポピスケはため息をつく。

「あのバイク⋯待っててくれるかな」

「なかなか大変だね。がんばれそう?」

「⋯がんばる」
ポピスケはしょんぼりと言った。

その会話を、ポピスケの部屋を訪れようとした父親がこっそり聞いていた。

★

「お前が欲しがってたバイクの件、俺が半分出してやる」  

父親は腕を組んでそう言った。

「えっ⋯ てか、なんで知ってんの!?」

「父親の勘ってやつだ」

「⋯」
ポピスケは冷ややかな視線を向けた。

「カッコつけなくていいよお父さん。聞いてたんでしょ、ぼくらの会話」

「うっ!!バレたか!!」

「でも、オレが欲しくて買うんだし、自分で稼がなきゃ意味がないよ」
 
「もう半分自分で稼いだんだからいいだろう。大人になって就職して稼ぐのと学生のバイトの給料じゃ効率が全然違うんだ。どうしても自分で出したいって言うんなら、俺へのローンってことにしておいて、就職して稼いでから返せ」

「父さん!」

思わず父親に抱きつくポピスケだったが、

「ポピスケ⋯♡」
と抱きしめる父親に、はっとして、離れると

「ば、バカ!!今のはアレだよ!!一瞬ガキの頃に戻ったっつーか!!!」

「いやぁ、ほほえましーね」
スクえもんと奥さんは顔を見合わせて笑った。

★

「やあ、やっと来たね」

バイク屋のおじさんは、バイクを買いに来たポピスケたちを見て

「君がよく熱心に見に来てたから、何回かご指名されてたけど、なんやかんや言って売らずに置いといたんだよ。わしもこのコが気に入っていてね。大事に乗ってくれると嬉しいよ」



スクえもんがこっそり言った。
「ぼくが未来の道具で『予約』しといたの。『とりおきブロントバートくん』って言って。予約してなくても『なぜか』『偶然』『なんとなく』とっててもらえるんだ。おめでとー」

ポピスケは大喜びでバイクを迎え、

「よろしくね、ウィリえもん」
とハグをした。


スクえもんは、その姿に、かつての姉貴分と幼いポピスケの姿を見ていた。
機械に心を与える道具を使って、このバイクを彼と話せるようにしてあげようかと一瞬考えた。

でも。

「ううん、それは無粋だよ。だってねーさんは今でもポピ太くんと、この空の向こうで笑ってるんだから」

そうつぶやいた。



数年後。大学で都会に出ていたポピスケから連絡が来た。彼女が出来たという報告もあった。
事故で声を失ってしまって話せないとのことだが、可愛くて優しくて、海に潜るのが上手な子らしい。
ウィリえもんにその娘を一緒に乗せてデートに行っているとか。


スクえもんと、ポピスケの両親は、彼がいつかその娘を連れてきてくれる日を、心待ちにしている。

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