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おやすみ、ウィリえもん
ポピスケの家の駐車場には、今は動かなくなった古い青い大きなウィリーバイクが停まっている。
「ウィリえもん、おはよう!」
ポピスケが声をかけると、眠っていたウィリーバイクは目を覚まし、にっこりと微笑んだ。
「今朝ね、パパが週末に水族館に連れてってくれることになったんだ。ママのなかよしのお友達が久しぶりに地元に帰ってくみたいで、ママはその人と過ごすみたい。だから、2人でどこへ行きたい?ってきいてくれたんだ」
ウィリえもんは笑顔のまま彼の話をきいている。
「お魚ってかわいいよね。きらきらしてて。だいすきなんだ。だから、いっぱい見てくる」
ポピスケはウィリえもんにハグをすると、部屋に戻って行った。
★
「ねえ、スクえもん。ウィリえもんは、昔は走っていたの?」
「そーだよポピスケくん」
スクーターが言った。
「どうして走れなくなっちゃったの?」
「普通に⋯消耗かな。色んな時代へ行って、たくさん走ったからね。無理に走らせるとものすごい音と煙がするし、本人もあちこち痛いみたいだから、今は休んでもらってるんだ。
でも、走れなくなっても意識を持ってるウィリーはたぶん彼女くらいなもんじゃないかな。ぼくらは走ることが生きがいなんだもの」
スクーターはそう言って、ポピスケと並んで歩いていた。
「ふうん⋯」
「パパが言ってただろ? おじさん⋯パパのお兄さんは、ウィリえもんの大事な運転手だったんだ。おじさんの人生はものすごくつらいものだったから、ウィリえもんは過去に戻って色々助けてあげたんだ」
「そうなんだ⋯」
「昔はおしゃべりもしてたんだよ。ぼくみたいに」
「え!そうなの!?」
ポピスケは目を丸くした。
「有名な猫型ロボットの真似して喋ろうとして、『ですだよ』とか変な語尾になってて、そのキャラ作りもけっこう忘れててさ。
でも、すごく頭がいいんだ。
未来の道具の扱い方は、ぼくもねーさんによく相談したよ」
「へえ⋯いいなあ。
ねえ、未来の道具で、ウィリえもんと話せない?」
「それはムリだね」
「どうして⋯?」
「何も書かれてない空っぽのメールを翻訳したって、結果は同じだろ?そういうこと。
同じウィリーのぼくから言わせれば、
彼女自身が、言葉を発する必要を感じてないんじゃないかな。
でも、君が話しかけると嬉しそうにするだろ。
話さないけど、聞くのは好きなんだよ。
だから、喜んでるのはぼくにはわかるよ」
スクえもんはそこで言葉を区切ると、
「ありがとうね、いっぱい話しかけてくれて」
そう言って笑った。
「よかった」
ポピスケは微笑んだ。
★
「どうしてポピスケくんに話しかけてあげないの?」
スクえもんは尋ねた。
「⋯どうしてもポピ太くんの面影を重ねてしまうんです」
ウィリえもんは静かに答える。
「話しかけると、思わず『ポピ太くん』って呼びかけてしまいそうになるから」
それを聞いて、
「ねーさんらしくないね。ぼくらの名前間違うことなんてしょっちゅうあるじゃない!未来で待機してるカスタムえもんくんと呼び間違えたりさ!」
スクーターはケタケタ笑っていたが、
「⋯そうですね」
ウィリえもんはそう言って微笑むだけだった。
「⋯」
「わたしを修理してもらっても、それは手間もお金もかかって、機能が半分も回復しません⋯。そんなことをジュニアンくんにさせたくない。
ポピスケくんにはもう、ジュニアンくんと、奥さんと、あなたがついていてくれる。わたしは、彼の記憶を保持したまま、この時代で役目を終えたいと思っています」
「!!」
「スクえもんくん。わたしはもう充分です。ほんとうに、幸せなの。ポピスケくんが、一人の子供として穏やかに生きていける未来を確信できるから」
「そうかもしれないけどさ、もう少し、もう少しだけ、生きてみない? ポピスケくんが小学校、中学校、⋯結婚して、ジュニアンくんみたいに幸せな家族をつくるとことか、見たくない?」
「ええ、もちろんです。でも、」
ウィリえもんは目を閉じる
「わたしにとって、それはポピ太くんじゃない」
スクえもんは、しばらく固まってしまった。
「そう⋯」
スクえもんは、さみしそうに呟くと
「⋯ほんとうに、だいすきだったんだね、ポピ太くんのこと」
そう言って、
「⋯まあ、そりゃ、ね。いまさらレターの仕組みは謎だし、亡くなった人が転生して返ってくるなんて、賢いねーさんなら、『ほんとかな?』って思っちゃうよね⋯」
と目を伏せた。
「いいえ、それは違います」
「え?」
「むしろわたしは、彼は間違いなく、ポピ太くんの転生した姿だと思っています」
「じゃあ、なんで??」
「だからこそ、去るんです。
そうすることで、わたしがいなくても、ポピ太くんの転生した魂であるポピスケくんが、愛されて、自分を愛して、たくさん笑って、生きていくことができたという、かけがえのない事実が残りますから」
「!」
あたたかい日差しが差し込み、春風が吹いてきた。
「彼らのこと、たのみますね」
ウィリえもんは微笑んだ。
「オッケーまかせて!⋯って、いいたいけど、やっぱり悲しいよ」
スクえもんはそう答える。
「ありがとう」
ウィリえもんは目を閉じた。
「わたしも、愛されていたんですね」
「もちろんさ。ジュニアンだって、奥さんだって。ポピスケくんだって。でも。⋯」
スクえもんは涙をぽろぽろこぼしながら
「⋯みんな、強くなったから、ちゃんと受け止めてくれるよ。だから、本当はこんなこと言いたくないけど、」
彼は笑顔をつくった。
「⋯もう大丈夫だよ。ねーさん」
「ええ⋯」
ウィリえもんは空を見上げた。
「おやすみなさい、ポピ太くん。⋯これからも、ずっといっしょですよ」
★
「ウィリえもーん!」
その日の朝、いつも通り、ポピスケはウィリえもんのところへやってきた。
「今日はすごく素敵な夢をみたんだ。おれはウィリえもんの運転手でね、世界中を走り回って。頬を切る風が、本当に気持ちよくて! ジャケットと手袋はね、君がわざわざ未来から買ってきてくれて⋯」
「⋯」
ウィリえもんは、いつものように目を覚まさなかった。
「⋯」
ポピスケはそっと、その頬に手を添えた。
「おやすみ、ウィリえもん」
そう言って、最後のハグをしたのだった。