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ワープスターでせかいりょこう
「ただいま。⋯ん?」
学校から帰ってきたジュニアンは、
「⋯」
言葉一つ発さず考え込んでいるウィリえもんに気を留めた。
ポピ太は留守だった。近所のコンビニに行くだけなので歩いて出かけたらしい。
「どうしたんだよポンコツ。故障か?それかなんか悩みでもあんのか?」
ジュニアンが声をかけると、
「⋯もうすぐ、未来に帰らなければならないんです」
ウィリえもんが重々しく打ち明けた。
「は!?」
ジュニアンが驚いて、
「なんでだよ?兄貴がなんか言ったのか?」
「違います。⋯実は」
「わたし、⋯ウィリーバイク型お助けマシン 通称『ウィリえもん』は、『お試し期間』中なんです」
「お試し⋯期間だって⋯?」
「はい。わたしがこの時代に来て、もうすぐ3ヶ月になります。ここで未来の道具を使って運転手さんの役に立った実績が3回以上ないと、生産された時代に強制送還されてしまうんです」
「!!」
「1回目は、『ノディじるしのねむりごな』を使用したときです。でも、ここに残るにはあと2回⋯実績が必要ですが、期限があと1週間しかありません」
「え?それ兄貴は知ってんのか?」
「話していません」
ウィリえもんは答えた。
「⋯マジかよ」
ジュニアンは頭を抱えた。
「確かに、あのバカ兄貴はあんたのこと『自体』を気に入ってるもんな。前も便利な道具なんか使わない!って言ってやがったし。⋯でもなんでだ? あんただって、兄貴と一緒にいたいんじゃないのか??」
「⋯もちろん」
「じゃあ言えばいいだろ。そういう理由なら、すぐにでも道具を使うと思うぜ?」
「⋯」
ウィリえもんはジュニアンをじっと見ると、
「そんなルールなんてなくても、頼ってもいいのだと、信じてほしかったんです。彼がそうしてくれないのは、わたしが頼るに値しない⋯それだけの信用がないということになりますから」
そう答えた。
「⋯はあ」
ジュニアンはため息をつくと
「お前、バカじゃねーの?たった3ヶ月でそんな確固たる信頼関係が築けるかよ。そんな人間単純じゃねえんだ。なんのためのおためし期間なんだよ」
「⋯えっ?」
ウィリえもんは目を丸くした。
「とりあえずルールだからって試しに道具を使わせてみて、はじめてそのすごさがわかることだってあるだろ? つまり、そのルールは今すぐあいつに言うべきだってことだ」
「⋯ジュニアンくん⋯!」
「ちなみに、その実績は俺の願いを叶えるんでもいいのか?」
「お兄さんを通してくれれば、可能です」
「よし、わかった」
★
「ウィリえもんが未来へ帰っちゃうって!!?」
ポピ太が叫んだ。
「な、なんで??オレのこときらいになったの??何か嫌なこと言っちゃった??何がだめだった??教えてよ⋯気をつけるから⋯!!帰るなんて言わないでよ!!!」
ポピ太は涙を流してウィリえもんに縋り付いた。
「落ち着けバカ!お前は彼女に振られかけてるのを引き止めようとする彼氏か!!⋯こいつは、実は『お試し期間』中だったんだ。⋯3ヶ月以内に道具を使ってお前の役に立たないと、未来に強制送還されるらしいぜ」
「えっ?」
ポピ太はそれを聞いて真っ青になった。
「ポピ太くん⋯ごめんなさい」
「そうだったの⋯?」
「ああ。こいつはそれを黙ってたんだ。そんなルールがなくてもお前が自発的に頼りにしてくるのを信じて待ってたってんだよ」
「そんな⋯」
「ごめん、そんな都合も知らずに⋯わがままばかり言ったせいで」
「いや、わがままというか⋯寧ろ誠実というか⋯あなたは何も悪くないのですが⋯」
ウィリえもんは返答に困ってそう言うと、
「でも、それがルールなんです。ゆるしてください」
と、ぺこりと頭を下げた。
「どうなんだ?なんか頼み事できそうなことあんのか?さっさと言え!!」
ジュニアンが怒鳴ると、
「⋯なんにも思い浮かばない」
ポピ太はそう力なく答えた。
「ふん、どーせそうだろうと、俺は考えてやったぜアホ兄貴!」
ジュニアンは得意げに腕を組むと、
「俺、『世界旅行』ってヤツに行ってみたかったんだ。それをあんたから頼んでかなえてくれよ。それなら1回実績ができるだろ?」
「ジュニアン⋯!!」
ポピーは顔を上げると、
「そっか、お前のために使うって方向があったのか!!そうすればもっとお前に楽させてやれたのか⋯。ごめんな、兄ちゃん自分のことしか考えてなくて⋯」
ポピ太がそうジュニアンに頭を下げた。
「…ッ!!」
ジュニアンは頭を抱えると
「うるせえ謝るな!!むしろお前は自分のことだけ考えろ!!」
そう怒鳴った。
「ウィリえもん、お願いできるかな?オレらを世界旅行に連れてってほしいんだ!」
「もちろんです!」
ウィリえもんは笑顔になった。
「ったく⋯」
ジュニアンは頭を掻いた。
★
『はい! ワープスター です〜!』
と、大きな星形の乗り物をタンデムボックスから取り出した。
「ワープスター!?⋯ずいぶんファンシーな乗り物だな。どこでも行ける便利なドアとかじゃないのか?」
ジュニアンがそう言うと、ワープスターはショックを受けたらしく、光の明度が下がってしまった。
「世界観の都合で出演してくれています。文句を言わないであげてください」
ウィリえもんがそう言うと、
「ワープスターくん、ポピ太くんとジュニアンくんです。世界旅行に行きたいそうなので、一緒に連れて行ってくれませんか」
と声をかけた。
ワープスターは、すぐにピカピカと輝きだした。
★
「っひゃーっ!!爽快だな!」
ワープスターに乗って空を飛びながら、彼らはさまざまな国を巡った。
「ちょ、ちょっと高度が高すぎるよ⋯!!!」
ワープスターにしがみついてポピ太が叫ぶ。しかし、
「人2人と、バイク1台を軽々と運ぶなんて、君は力持ちだね」
彼がそう言うと、ワープスターはとても喜んだらしい。
「「「「わああああ!!!」」」
空中で一回転した。そして次の目的地まで、アクロバット飛行を繰り返したのだった。
★
「⋯」
ポピ太はトイレから真っ青な顔で出てきた。
「兄貴、大丈夫か?」
「⋯だいびょうぶ⋯らよ⋯全然」
彼は手をひらひらと振った。
⋯全然大丈夫じゃないやつだ!!
ウィリえもんとジュニアンは顔を見合わせた。
「ポピ太くん、しばらく横になりましょう。⋯ジュニアンくん、酔い止めを飲ませてあげてください。荷物の中にミネラルウォーターと一緒に入れておきました」
「ったく、世話が焼けるバカ兄貴だぜ!⋯ワープスター!お前も乱暴運転は勘弁してくれよ!!」
ワープスターはしょぼんと垂れてしまった。
「ほめてもらえて嬉しかったんですよね。…マシンにとって、乗り手に褒められることは極上のしあわせなのです」
ウィリえもんはやんわりフォローした。そうだそうだ!と抗議するように、ワープスターはウィリえもんの後ろに隠れた。
「そうにしたって、今のはさすがに心臓に悪いだろ!!」
★
色々あったものの、彼らは様々な国を訪れ、観光を楽しんだのだった。
「はい、プププ!」
ウィリえもんがランプに内蔵したカメラを構え、シャッターを押す。
★
「いやーっ楽しかったぜ!」
たくさん写真を撮って、彼らは帰ってきた。
「ありがとな、ウィリえもん。⋯」
ジュニアンはウィリえもんにお礼を言うと、
「⋯」
急に黙ってしまい、
「⋯どうしたジュニアン?」
と心配したポピ太に、
「⋯一応、兄貴も」
彼はボソリとそう言った。それを聞くなり、
「なんだようジュニアン!! 兄ちゃんにありがとうなんて、嬉しいじゃん♡♡ 兄ちゃんこそ、ありがと♡♡」
ポピ太はジュニアンに飛びつき、
「ギャーッ抱きつくな鬱陶しい!!! 『一応』って言ってんだろが!!!」
ジュニアンは顔を真っ赤にして怒鳴った。
ポピ太は、彼から離れると、
「⋯冗談とかじゃなくてさ、お前が言ってくれなかったら、ウィリえもんの実績作ってあげられなかったし」
そう言って、
「⋯ありがとな」
改めてお礼を伝える。
「ふん、俺は自分の夢を叶えただけだし。あんたに礼言われる筋合いなんてねーよ!」
ジュニアンはそっぽを向く。
「⋯」
ウィリえもんは、そんな兄弟の姿をじっと見つめていた。
「それより、これでその『実績』は2回目なんだろ?
最後の1回は、お前が作ってやれよな。もう助け舟は出さねーぞ!」
ジュニアンはそう言って、「じゃ、寝るから」と自分の部屋に戻ってしまった。
「そうだ⋯あと1回あったんだ」
ポピ太はハッとした。
時計の針は、もう夜の8時。
ウィリえもんが強制送還されるかどうかの期限⋯つまり明日の朝8時まで⋯
「あと半日しかない!!」
ポピ太は愕然とした。
ジュニアンは、もう助け舟…つまり、彼を主体とした頼み事は絶対にさせてくれないということだ。彼は、頭が真っ白になっていた。
「焦らせてしまってごめんなさい、ポピ太くん」
ウィリえもんはそう謝った。
「ううん。君はなにもわるくないよ。⋯」
ポピ太はそう笑顔で答える。そして、
「⋯でも、やっぱり…君に⋯頼み事なんて⋯」
そう言って、黙り込んでしまった。
「やっぱり、浮かばないですかね…?」
ウィリえもんは寂しそうに呟く。
ポピ太は、しばらくの沈黙のあと、重い口を開いた。
「⋯少し、外に出てもいい?」
★
ポピ太は、ウィリえもんを連れて夜の海岸を訪れていた。
長い間、交わす言葉もなく夜の街を歩いて、ここへたどり着いたのだった。
寄せては返す波。
月の光がそれを照らしている。
「とてもきれいですね」
ウィリえもんがそう言うと、
「そうだね…」
ポピ太がそう答え、
何かを決意したように、顔を上げる。
「ねえ、ウィリえもん」
彼は振り向き、
「はい」
ウィリえもんが彼を見上げる。と。
「⋯生まれてきたことを許してもらう道具、なんてあるかな」