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(追加章)救済の炎
「⋯バニー」
「なんでお前がここに⋯?幻か⋯?」
『否。汝が見ている我はホログラムなり』
「ホログラム⋯?」
『七色の精霊が汝を守護する』
「⋯GREAT!!!ステッカーの話じゃん!!」
「⋯」
「⋯」
「⋯意味、わかんないよな」
ポピーが静かに呟く
「⋯あいつは、おれにちょっかい出すことで、母さんの気を引こうとしてるんだ。母さんは、そんな悪ふざけに付き合う余裕なんかないのに⋯。⋯⋯ほんと、子どもみたいだよな⋯馬鹿げてるよ⋯ほんと⋯」
そう言って笑った。
「⋯」
「お前はおれのこと、いっぱい、立派だとか、気高い⋯とか言ってくれたけど、実際はこうなんだよ。おかしいってわかってるのに、抵抗できなくて。従うしかできなくて。ちっとも強くなんかない。戦士どころか…ただの奴隷だよ」
「⋯」
「これが夢だって、わかってるんだ。さっさと出ていってくれ。ちゃんと全部忘れてくれよな」
『汝の記憶の此れは、まさに「強者を装う弱者」の逆らえぬ他者への横行なり』
「え?」
『⋯戦いの中で、同じような輩から、虐げられた子どもたちは決して少なくなかった』
「⋯」
『我は⋯汝に彼らの姿を重ね見る』
「⋯そっか。⋯そういう時代だったんだもんな。お前のいた時代(ところ)は」
『⋯是。⋯汝の⋯彼らの、その魂の深手が如何なるものであるか、我には計り知れない。ただただこの心に在るのは、激しい憤りと無念の思いなり』
「⋯バニー⋯」
ポピーはバーニングウィリーのホログラムに手を伸ばした。
「⋯お前は本当に、優しいやつだよな。自分だって、この時代で…当時の仲間はいないのに、生きてるのって辛いだろうに、おれなんかに⋯おれなんかの夢に現れて、そう言ってくれるなんて」
彼の頬から涙が伝う。
「今のおれは、幸せなんだ。可愛くて頼もしい弟がいて、オレのこと運転手に選んでくれてずっとそばにいてくれるウィリちゃんがいて。
なのにこんな夢、今も見てる自分が⋯嫌だよ」
『⋯左様か⋯』
「昔に比べれば⋯見る頻度はかなり減ったけどさ⋯、思い出したみたいにこうやって。『教訓』みたいに湧いてきて。
夢の泉のスターロッドも、きっと、おれはこんなふうにされてあたりまえの存在だって、言いたいんだろうな。どんなに、お前とがんばって練習して、舞台とか成功させて、自分のこと、すこしは生きてていのかなって、思っちゃだめなんだよな」
『⋯我は思う。民の見る夢を与えし神聖なる泉の主が、もし汝に此のような悪夢を見せるのであれば、その真意とは、⋯』
「…?」
『恐らく、汝が、救済の手を伸ばせるか。其れを試みるためである、と」
「え?」
『⋯我が同胞であるグランドウィリー、汝の相棒である青い装甲を纏いし気高き車輪。彼女の言葉を借りるならば、』
バーニングウィリーは一度言葉を切ると、
『⋯「こわいって思うものと、ひとりで戦わなくていいんだよ」』
「⋯!」
『⋯此の言葉は此の時代で「内なる戦い」を宣言した我に彼女がくれた言葉。恐らく、彼女はこれを、⋯騎手である汝に最も伝えたいと切実に思っている』
「⋯おれに⋯?」
『是。而も、汝には、⋯言葉ではなく、頼っていいのだと思える関係そのものをを築こうとしていると見た』
「⋯ウィリちゃん⋯が⋯」
『花の名を冠する微笑みの戦士よ。我から、汝の凍えた心に灯す「炎」を託したい』
「え?」
『⋯此れは過去の時代に救えなかった幼き光たちの無念と、願い。汝が自らを救い出す時、彼らもまた、救われるであろう』
「救えなかった⋯幼き光」
『呼べ。相棒(とも)の名を。手を伸ばせ。⋯今の汝はその強さを、「知って」いるはず』
バーニングウィリーのホログラムが消え、
『⋯我は彼らとともに、汝の心の雨が晴れることを切に願う』
その声だけが最後に響いた。
★
黒い影が、再び彼の前に現れる。
「ポピー、待たせちまったなぁ」
「⋯」
「じゃあ『続き』⋯しようか。 今夜もいーっぱい”付き合って”もらうからなぁ⋯?」
低い不気味な声に、体中の傷跡が疼く。
いつもなら、このあとこの男の気が済むまで、殴られたり、傷つけられたりしていた。だが。
彼は、後ずさりながら、
「⋯ッ」
声を出そうとした。
「⋯けて」
それが、少しだけ、音になる。
「? なんだ⋯?」
「『たすけて、ウィリちゃん』」
彼がそう叫んだ瞬間、
空間の空がガラスのように割れ、何かが轟音とともに飛び込んできた。
そして。
「!!!」
グシャアアア
と、その影を轢き潰すと、
「⋯あれ」
彼女はそれに今気づいたように声を出すと、
「⋯どなたかわかりませんが、轢いてしまったようです」
そう呟いた。
「⋯ウィリちゃん⋯!!」
ポピーは驚いた。
助けを求めた瞬間、彼女は本当にやってきた。
どうしてとか、どうやってとかはわからない。これは夢なのだから。
けれど、彼女は間違いなく、彼の前に現れたのだ。
しかも彼を過去に縛り付ける影を、いとも簡単に『轢き潰し』て⋯
「⋯」
ポピーは、なんと声をかけたらいいか分からなかった。
『ありがとう』⋯そう言うには、軽すぎる。
あの優しい彼女にに、生き物を轢いてしまうという、彼女にとって最低な経験をさせてしまったのだから。
「ウィリちゃん⋯あの」
「⋯ポピー。わたしは『なにも見ていません』。服を整えて、一緒にここを出ましょう」
彼女はそう、背中を向けたまま伝えたのだった。
★
「⋯もしかして、ずっと⋯待っててくれたの?」
「⋯」
ウィリーは答えない
「オレが見てる夢のこと、ずっと、知りながら⋯」
「⋯」
ウィリーは考えているようだった。が。
「…夢の泉で、スターロッドにお願いしていたんです。もしポピーがわたしを”呼んで”くれたときは、どんな場所にいても、彼のもとに”飛ばして”くださいって。それを、きっと叶えてくれたんですね」
彼女はそう言うと、
「どんなに嬉しいか」
そう言って、正面に向き直った。
「⋯ごめんね、こんな、嫌なことさせて」
ポピーは謝った。
「夢の中の出来事ですから」
彼女は笑顔でそう言った。
「あなたがそれで気が晴れるなら、あんな影、いつでも、ぺしゃんこにしてやりますよ」