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【SS】半分のトマトとぼく(三次創作)

​★

「カービィ!そこにいたんだね!探したんだよ」
ワドルディが走ってきた。
そしてその顔を見て驚く。
カービィが泣きはらした目をしていたからだ。


「…ちょっとね。もう平気」


「ぼくには、全然そうは見えないけど。何かあったの?」

ワドルディは、たずねる。
例えば、好きなお菓子を大王にとられたとか、
そういういつものカービィらしい理由だったらいいなと隅に思いながら。
けれど、今回どうも、そうではないらしかった。

「ねえ、ワドルディ。きみは、ぼくが男の子か女の子かって聞かれたら、どっちだと思う?」

「え?いきなり?…ぼくは、」

そういえば、あまり気にしていなかったなぁと呟くと、

「そうだね、どっちでも、カービィはカービィだよ」
ワドルディは微笑んだ。

「どっちでも、ぼくはぼくだと思う?」

「そうだよ!」
ワドルディは笑顔のまま両腕をひろげて言う。

「だけど、どっちだったとしても、やっぱりあまり無茶はしてほしくないかも。
ぼくらにももっと頼ってほしいな。ぼくはいつもカービィをあてにしてばかりだもの…だから」

そして、話してほしいな、と言うように、その瞳がカービィを映す。

カービィは、ワドルディに話すことにした。

「一週間前、話したんだ。大王にぼくが女の子だってこと」

ワドルディは、一瞬、目を丸くしたが、
不思議と、すぐに納得がいったようだった。。

「…そうだったんだね」
落ち着いた様子でそう言って、彼は続ける。

「それで。もしかして、大王さまがそれを何か言ったの?からかったりとか。」

「ううん、ちがうの。そうじゃなくて…」
カービィは切り出した。

「大王も、これまでと同じようでいようって、言ってくれたんだけどさ…」

先ほど、体力がなくなってピンチになっていた時に。
デデデが回復アイテム(マキシムトマト)をとったあと、
”くちうつし”で回復させてくれたのはワドルディとメタナイトだけで、
彼に自分に渡したのは、半分にしたトマトだったのだと。
それがとても悲しかったのだと、ワドルディに打ち明ける。

「…そうだったの」
ワドルディは回復させてもらったあとすぐに敵に応戦していたので、知らなかった。

「大王って、強いひとが好きでしょ。ぼくのこと、女の子だって知って、おもしろくなくなっちゃったのかも。
こんなことなら、ずっと黙っていたらよかったなって」

カービィはそういうと遠くを見つめる。
夕日がそのまあるいからだを照らしていて、表情は見えない。
ワドルディは、そのまま、どこか遠くへ行ってしまいそうな予感がして、慌ててその手をつかんだ。

「そんなことはないよ、カービィ。きみが女の子だってきいて、ぼくはステキだなって思う。
それに、大王さまがトマトを半分こにしたのは、他にも理由があるかもしれないよ。
もう一度、そのことでちゃんと大王さまと話ができればいいんだけど。…」

カービィは黙って彼の手を見つめる。

「ありがとう、ワドルディ。きみに話せてよかった」

「うん。ぼくも話してくれて嬉しいよ。」

 

「あ。」
ワドルディが、何かを思い出したようにはっとした。

「どうしたの?」

「メタナイト様にも秘密にしてたほうがいい?」

「んー…もうすこし。」
このタイミングで打ち明けるのも変だし。
と続けると、

「説明、めんどくさいから。」
ぺろっと舌を出す。

「まあ、そのうちね」
ワドルディは秘密を知っても変わらずにいてくれるようだった。

 


「へっくしゅ!!」

メタナイトが盛大にくしゃみをした。


その日
デデデはカービィにどう接するかという点で悩んでいた。


「なあ、メタナイト」

「何だ?大王」

「俺らって、”くちうつし”で回復するよな」

「ん?ああ、そうだな」

「でも、それは仲間だからであって、他意はないわけで…。」

「うむ??」

「なんつーか、そういう接し方って、他の国ではやらないらしいな。とある国では、くちうつしは、その…すげー仲のいい恋人同士とかがやる行為なんだよな。」

「らしいな。だが、こっちの風習は、こっちの風習だ。あまり意識するとやりづらくなるぞ」

「はは、違いねぇ…」

「どうした。何かあったのか」

「いや、何でもねー…」


…意識、か。


そこまで考えて、デデデは星空を見上げる。


その次の日。

 

「や、やっと倒せた…」

「おまえら、生きてるかー?」

「ああ。厳しい戦いだった…」

「もう動けないですー…」


今回のステージボスは手ごわく、今回の戦闘は全員瀕死に近い状態になってしまった。


体力をわずかに残していたカービィが、マキシムトマトを見つけた。

カービィはそのトマトを半分に割って、

すぐにメタナイトとワドルディに”くちうつし”をして回復させる。

そして、最後にデデデのもとに歩み寄ると、


あの時彼が自分にしたように、トマトの半分を差し出した。

「…はい。」


デデデは、受け取らずにじっとそのトマトを見て、それから視線をカービィの顔に移した。

自分を見つめる大きなその瞳からは、涙が溢れそうだった。


…どうして、そんな顔をするんだよ


彼はそう思った。

 

 

「…なあ、カービィ」

デデデから声がしたので、カービィは彼を見た。

「あの時…どうして俺さまだけに話したんだ? お前が女の子だってこと」

「えっ」

思いがけない言葉に、カービィはトマトを持ったまま驚いている。

「おまえ、今まで、どういう気持ちで、俺さまに”くちうつし”してたんだよ?」

「…!!」

カービィは何も言えなくなった。
デデデは、そのまま言葉をつづけた。


「ま、それがこっちの風習だし。おまえにとっても、仲間を助ける行動なんだろうけどさ…」


「それだけじゃなくて。今まで、俺さま、おまえが女の子かもしれないって考えもしないで、
遠慮なく殴ったりケンカふっかけたりしてただろ。…
おまえは楽しそうに見えたけど、本当はそうじゃなかったかもしれないって思ったら、…」

「それは…!」
違うよ、本当に楽しかったよ。
そう言いたかったが、デデデは言いたいことがあるようだった。


「ヘンだよな。今まで通りでいようって言ったのに…
あれから、なんか妙に色々考えて、いつもみたいにできなくなっちまった」


「でも、今更だけどな。そんなこと、気にしても。」
ハハ、とデデデは力なく、笑う。

デデデが、「ごめん」といいかけたのを

「…すきだからだよ」
と、カービィが遮った。

「へ?」

「大王にキスできたのは、きみのことが好きだから。」

「!」
デデデは、言われたことへの理解が追いつかずかたまってしまった。

「秘密を打ち明けたのは、もしも女の子だって知ってもらったら、

もっとぼくにふれてくれるかなって。もっとぼくを見つめてくれるかなって。

そう思ったからなんだ」

そう告げて、

「でも、きみはそうじゃなかった。かえって、困らせちゃって。」

やや間があって、カービィの口から、震える声で「ごめん」と言いかけた時、
今度はデデデの方が遮ってきた。

「…しろよ」

「え?」

「そ・れ」
デデデはカービィが持っている半分のトマトを指さした。

「早くしろよ。か・い・ふ・く!ほら、俺さま死にそうになってるだろ」

彼はそういうと、と目を閉じて、ん、と唇をつきだした。

所謂、キスを待っている恰好だった。
顔は真っ赤になっている。

「!」
カービィはようやく、彼が”くちうつし”をしろと言っていることを理解した。

「え!?い、いいの?だって…」

カービィが狼狽えていると気づいて、デデデは目を開ける。

「あー…いや、いいの?って…おまえこそ、あとで後悔しても知らないぞ?」

「こうかい?…なんで?」


「キスが違う意味になっちまうってこと」


「!」


「俺さまだって、おまえが好きなんだからな」


その言葉に、カービィはそれまでの真っ暗な気分は吹き飛んでしまった。

大王が、自分を好きだと言っている。

それはもう、今すぐ、『やったー!!大王がぼくのこと好きだって!!ちがう意味でチューしてくれるって~!!』
と叫んでそこらじゅうを走り回りたい気持ちだったが、
今は、彼の回復が先だった。

カービィはキリリとまじめな表情をつくると、
ちょっと待ってねと、緊張のせいか若干まごつきつつ、トマトを咀嚼した後、

チューッと、長い時間をかけてくちうつしを行ったのだった。


その様子を少し遠くから、
「あの二人、やけに回復に時間がかかっているな…」
メタナイトが不思議そうにながめている。その隣で、
「ふふ、よかったね、カービィ」
ワドルディは、ニコニコと微笑みながら二人を見守っていた。
メタナイトは、そんなワドルディを怪訝そうに見て。
彼が喜んでいる意味が全くわからなかったが、適当に解釈して完結することにした。

「おーい!早く行くぞ二人とも。早くマホロアにスフィアを渡しに行くんだろう」
剣を高々と掲げて二人を呼んだ。


「そうですよ!今夜はゆっくり夜ご飯をたべましょう!」
ワドルディも続ける。


デデデはカービィのほっぺをふにふにと触って、愛でていたところだった。
カービィもそれはそれは嬉しそうにそれを受け入れていたが、

「はっそうだった!!」
とを振り返る。


「おう今行くぞ!」

じゃ、続きはまたあとでな、とばかりに目配せをして、二人も向かう。

 

 

というわけで、彼らの旅はこれからも続くのだった。

 

 

<おわり>

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