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◆◆◆


ワドルドゥも体が軽いので、軽やかに槍を避けるが、
何本も飛んでくる槍はとてもバンダナワドルディが両腕に抱えても持ちきれない量だ。



「…どこからそんなに槍を?」

「手品をね。ポピーから教わったんだ」

手品。
ポピーブラザーズSr.は手品で火薬や爆弾を隠し持って取り出す技術で多彩な爆弾なげを披露する。
火薬を無から作り出す技術は魔法だが、
それを爆弾にこしらえるのは彼らの知識によるもので、出来上がった爆弾を投げつける部分は物理。
つまり魔法と物理を組み合わせているタイプといえる。



隠し持っていた20本の槍の半分を使ったら、拾って補充する。

バチッ

「痛ッ…!?」

ワドルドゥのビームマシンガンがヒットする。
高くジャンプして斜め方向に撃つビーム技だ。

どこへ行った!?とキョロキョロしてると

「後ろだよ」
と次の一撃。

「ッ!!」  

バンダナワドルディはビームか来た方向へ突きを入れるが既にそこにワドルドゥの姿はない。

そしてまた、彼は存在感…いや気配を消してしまうのが得意で、どこにいるのかわからなくなってしまう。

…わーっ! うっとうしい!

バンダナワドルディはポピーの言ったことがわかった気がした。

そして、ヒュッと風を切る音がした方向へ、

「そこか!?」

と槍を突くが、

「残念、こっち」

なんと、風を切る音は彼の投げた小石だった。
ワドルドゥはそうしたあとすぐに移動…まったく別方向からビームウィップを撃ってきたのだ。

「ッ!!」

せっかく繰り出した攻撃が当たりもしないのはなんだか癪だし、戦意もなんだか削がれてくる。

…だけど、それも彼の狙いだというなら?

対処のしようはある。
バンダナワドルディは体勢を整える。

「…そうやって、ちょっとずつ削ってくつもり?
なんか、君らしいかもね!」

挑発する。もし乗ってくれば、ペースを崩すかもしれない。

「…こっちは回数が限られてるからね」

しかし、ワドルドゥは気にしない。
自分にはそれしかできないのだから、見栄を張ってもしょうがないからだ。

「それより、君はおしゃべりしてる余裕があるのかい?」

ワドルドゥも言い返す。

「わかってるよ!」
バンダナワドルディはそう言うと、槍を構えた状態から突きを繰り出した。

ワドルドゥはそれを避けたが、
さらに二本、三本と槍が飛んでくる。


「こっちだって手を抜くつもりはないんだからね」
バンダナワドルディが笑う。

そして、また突進攻撃と槍投げの連続技を繰り出した。

ワドルドゥはそれを避けたあと、無数のオーブが回転するビーム技、サイクルビームを撃つ。

「!!」

さきほどのビームウィップ、ビームマシンガンよりも威力の強い一撃。

ところが、バンダナワドルディはワドルドゥの予想外の行動をした。 なんと、痛みに怯むことなくサイクルビームを喰らいながら前進し、突き攻撃を放ってきたのだ。

「!」
ワドルドゥが目を(さらに)丸くする。

…サイクルビームはビームウィップやビームマシンガンより威力がある分、硬直時間がある!

バンダナワドルディはポピーからそれを聞いていた。

3、2、1。

ワドルドゥの体がようやく自由になる。
そして、間一髪、バンダナワドルディの攻撃の刃先が彼の頬をすり抜けた。

「驚いたよ…サイクルビームの硬直時間のことを知ってたのか」

バンダナワドルディはふふ、と笑う。

「それだけじゃないよ? 波動ビームには貯めの時間が発生する。だからあまり君は戦闘では使いたがらないって」

その通りだった。

威力の大きいリスクの高い技よりも、機動性の高い技で、敵の技を避けながら確実にこちらの攻撃を当てていく。
そもそもワドルドゥ族とは、HPが他の種族より低い上に、全体的な攻撃の威力も低いのだ。…となると、戦闘では自然とそういう戦い方になってくる。

「…だけど、その2つだって無限に撃てるわけじゃないんでしょ?」

もし、このビームウィップとビームマシンガンがそれぞれ30ずつ使えるとして、それが切れると残るのは、硬直時間のあるサイクルビームと、貯めが必要な波動ビーム。
この二種類で戦うとなると、敵の技の回避が難しくなってくる。

「…だから長期戦に持ち込まれると、つらいんだよね…?」

と、バンダナワドルディは笑った。


…持ち込むつもりだってことか。

ワドルドゥは、一度呼吸を整える。

…サイクルビームは20回
…波動ビームは10回

ビームウィップとビームマシンガンの回数切れを狙ってくるなら、他の技を組み合わせてつないでいくしかない。

とはいっても、

バンダナワドルディの動きは素早く、とくに突き攻撃の威力が高く、間合いに入れば大ダメージを食らうことは想像がついた。
そして、槍投げの範囲も広く、連投スピードも速い。
それに加えて体力を上げているのだから、そう簡単にはノックダウンも見込めない。

「…」

一見完璧に見えるこの状況を、どこから崩していくか。
ワドルドゥは一定の距離をとりながら、彼の攻撃を避けていく。



その時だ。
バンダナワドルディは急に立ち止まり、槍を構えると、物凄いスピードで振り回した。

そのさまはヘリコプターのプロペラのようで…

『ワドコプター!』

!?


…と、飛んだ…!?

彼の体はフワリと浮き上がり、そのまま風を切る音が響き、空中に留まった。


二人の勝負を見守っていたワドルディたちが、わーっ!と歓声を上げた。

「えっ…?」
 
…なんだ?この技は

ワドルドゥは呆気に取られてしまう。

…槍をプロペラのようにして飛ぶなんて…バンダナ君の体の軽さと鍛えた腕力が為せる技ということか。

彼が、なんだかとてもすごいことをやっているのはわかった。
ただ、目的がわからない。

…何故こんな…一見必要のない動きを?

そう、隙だらけなのだ。

空中に漂う彼をビームで撃ち抜くことは容易だった。が、相手が何をしようとしているのかわからないうちに、隙を突いて終わらせるのも、なんだか気持ち悪い。

ふと、彼は思い出す。
デデデ大王の愛用する技「スーパーデデデジャンプ」も、決まれば威力はでかいけれど、かなり隙が大きく相手に避けられやすい。
カービィに至っては、すっぴんで戦う時のいい星拾いチャンスだなんて言っているほどだ。
しかし、デデデがそれでもその技を使うのは、見た目の派手な技は、観客を楽しませるからだ。

デデデ大王は、勝負をとことん楽しむ男だった。

多少相手に隙を与えても、場が盛り上がるパフォーマンス目的の技を持っておくのもいいものだぞ!

と彼は言っていた。

確かに、この技を見たワドルディたちも歓声を上げている。『かっこいい!!』と盛り上がっている。

…バンダナ君は大王さまを強く目標にしてるのだから、そういうことなのか?

ワドルドゥは一瞬思ったが、


…いや、違う。彼の場合は、ーー!


「—ーからの、」


『月落し!』

彼がワドルドゥの真上に来た瞬間、繰り出したのは、垂直落下と同時に槍をふるう大技だった。

直撃すれば、落下の重力分のダメージを喰らうことになる。

『!!!』
ワドルディたちの歓声が上がり、そして止まる。

衝撃で砂煙が舞い、二人の姿が見えない。

バンダナワドルディの一撃が決まった。

…それはもう、かっこよくてすごい大技だったのたが、

彼らはワドルドゥ隊長の安否も心配だった。

あんな攻撃をくらっていたら、怪我どころではすまされない。

どちらかがダウンした時用にマキシムトマトやドリンクを準備していたが、下手をすれば1upで蘇生をしなければならないかもしれない。

その場の誰もが息を呑む。



…仕留めたか。

バンダナワドルディは一度そう思って、ハッとした。
ワドルドゥが、怪我をしたくないからと言っていたことを思い出したのだ。

「しまった…つい、本気になって…

あれ?」


槍の先にワドルドゥの姿はなかった。

「!? 手応えはあったはずなのに…!」


砂煙が上がり悪くなった視界を見渡していると、ある音に気づいた。

…! この音は…!

そう思い、槍を構えた時には、遅かった。

砂煙に紛れていたワドルドゥはバンダナワドルディが気づく前にエネルギーを貯めていたのだ。

『波動ビーム』

「がっ…!!」

バンダナワドルディが吹き飛ぶ。

砂煙で自分の姿が見えなくなっている、という状況と、相手が大技を決めた直後の隙をついた一撃だった。

とはいえ、エネルギー貯める時の音は、よく注意していれば聞こえていたはずだ。
そこはまだ、新しい技をおぼえて、それが決まったと思い込んだが故の驕りというやつだろう。

そして。

「!」

バンダナワドルディが気づいた時には、
ワドルドゥの光の鞭が彼の体を捉えていた。

…キャプチャービーム…!?

それはバンダナワドルディが計算に入れていなかった技。
敵を捉えて一撃で倒す、ザコキャラ限定で使えるビーム技だった。

「…くッ」

バンダナワドルディは、光の鞭に拘束され、体を動かすことができない。

「いっぱい技覚えたんだね。すごかったよ。
…でも、

…もう動けないよね?」

「!!!」

デデデやポピーのようなボス、中ボスクラスには使えない技が、同じザコキャラには命取りなる。

バンダナワドルディは背筋がゾクリとした。

…喧嘩を売るのはやめとけよ? と、
ポピーの言ったことを思い出した。

普段の優しい彼とは違う一面。
もしかしたら、彼はとても怖い人なのかもしれない。

「…」

それでも後悔はしなかった。
親友の実力を知りたい。そして、自分がどれだけやれるのかを知りたかった。
何かあったときに、守れるように。
助け合えるように。


「…降参するなら、解くけど?」

ワドルドゥは確認した。

「まさか! するわけない!」

バンダナワドルディは即答する。

…こんなの、力を込めて振り切れば…!

バンダナワドルディは、落ちた槍を拾うことだけ考え、暴れた。
しかし、絡みついた光のウィップがそれを許さない。

「そう。じゃあ…」
ワドルドゥは、静かにそう言うと


「…ごめん」
と、力を解放する。
バンダナワドルディの体に絡みついていたウィップに電撃が走る。

「あ゛▲◎◆★〜ッ!!?」

バンダナワドルディが絶叫を上げた。

すぐに電撃を放ってしまっても良かったが、相手が瀕死に陥るので、降参させることを考えた。しかし、今のバンダナワドルディがそんなことを選ぶはずもなく…


体を縛っていたウィップが解けると、
彼はぐったりとその場に倒れ込んだ。

『バンダナ先輩〜!!!』

勝負は決まった。
ワドルディたちが泣きながらかけよってくる。

『大丈夫? 大丈夫ですか??』

バンダナワドルディの返事はない。
『はやく、トマト!トマト!』

ワドルディたちは、マキシムトマトをジュースしたものをバンダナワドルディに飲ませてやる。

「…」
ワドルドゥは、何も言わず立ち尽くしていた。

…そもそもあまり気の進まなかった勝負だ。
勝てたところで、残るのは大切な人を手にかけてしまったという罪悪感だった。

ワドルディ隊の何人かが彼のもとにやってくる。

『隊長は、なんともないですか?』

「うん、大丈夫…でも、わたしももらおうかな」
と、トマトを受け取ろうとした。

ところが、

『ひゃあああ!!!』
ワドルディたちが悲鳴を上げる。

「?」

『隊長!うで!うでが…!!』

「わ…! ほんとだ」

彼の左腕が大きく裂けている。

先程の月落しの直撃は避けられたものの、無傷というわけにはいかなかったのだ。
バンダナワドルディが、手応えを感じたのはそのせいだった。
それほどの威力があったということだろう。


「…すごいな…」

『感心してる場合じゃないです!!』

ワドルディ隊の一人が大急ぎで傷口に布を当て、包帯を巻く。そしてマキシムトマトを彼の(見えない)口にブチんだ。…バンダナワドルディに対してちょっと荒っぽいのは、普段の関係ができているためだろう。たぶん。

『自分のことも気にしないと、“めっ!”ですよ!?』
手当をしたワドルディの子に涙目で叱られてしまい、

「…気をつけるよ」
とワドルドゥは返事をする。


そうしているうちに、

「はっ…」
バンダナワドルディが目を覚ました。

「ボクは…隊長と勝負して…」
そう呟くと、


「負けたのか…」
と、肩を落とす。

『でもすごかったですよ!!』

『カッコよかった〜』
ワドルディたちが歓声を上げる。

ワドルドゥはバンダナワドルディに何かを言おうとしたが、彼は負けたことがよほど悔しかったのか、

「…ッ」
何も言わずに立ち上がると、走って行ってしまった。

…あんな事をした後で、
僕が謝っても、慰めても、しょうがないよな

ワドルドゥはそう思った。

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