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甘い甘い魔法を

甘い甘い魔法を

ポピーとグランドウィリーのバレンタインエピソードです。
魔法使いのシミラがたくさんしゃべるのはこの話が初めてかもしれません。
(初登場回はちゃんと書けてない…)

プププランドの年末年始の行事が落ち着いてきた頃。

ポピーは弟のポピージュニアを学校に送ったあと、今週の買い出しをするためプププ商店街へやってきていた。愛車のグランドウィリーも一緒で、街の中では後ろからコロコロとついて来ていた。

「もうすぐバレンタインですね。商店街がハートやリボンでいっぱい。 とってもかわいらしいです…!」

グランドウィリーはそう言ったが、
ポピーは露骨に嫌そうな視線を向けた。

「? どうかしましたか?」

「バレンタインねえ。こんな迷惑な行事はよその星でやってほしいもんだね」

「あっ」
グランドウィリーはしまったと思った。

そうだった、彼はバレンタインが好きではなかったのだ。

「いるんだよ! チョコレートをいくつもらったかを自慢するやつが。そんなので男の魅力は決まったりしないのにさ! そうでしょ?」

毎年恒例の文句が始まる。

「それはもちろんそうだと思います」

とりあえずもらったチョコの数でその人の魅力は測れないことは同意するグランドウィリーだった。

その時だ。

「バレンタイン反対ーッ! バレンタインを撲滅せよーッ!!」

商店街のメインストリートから、
少人数…5、6人ほどの集団による叫び声が聞こえてきた。
(構成メンバーはキャラのファンに怒られそうなので適当に想像してください)

「いいじゃんあれ。オレも参加しよっかな」


街ゆく人々に哀れみの視線を向けられながらも彼らはバレンタインへのヘイトを強く表現していた。

その先頭にいたのが、

「おや、ポピーの若造とグランドウィリーの嬢ちゃんじゃないか!」

2人とは知り合いの、魔法使いのシミラだった。

「シミラ婆さん!! あんたこんなとこでなにやってんだよ!?」

ポピーが駆け寄りグランドウィリーもついていく。
いつもなら幻惑の森といわれる森に住んでいる彼女だが…

「ふふーん。見てわからんのか? 独り者の心を苦しめいたずらに孤独感を煽る悪しき商業イベント…“ヴァ”レンタイン・デーを! プププランドから追い出すため、こうしてデモをやっておるんじゃ!」
シミラは得意げに、持っていたプラカードを掲げた。

「「…」」
ポピーとグランドウィリーは顔を見合わせた。

「ちょっとわしは話してくるからのう。お前さん方でやっといてくれ」

「アイアイサー!!」
シミラがメンバーたちにそういうと、彼らはまた、

「バレンタイン反対ー! バレンタインを撲滅せよー!!」

声を高らかに上げて、行進し始めた。


「お前さんも参加したいなら混ぜてやらんこともないぞ?」

シミラはポピーに言った。

「いいです。オレ今週の買い物があるんで」

彼はそう言うと、「んじゃ行ってくるわ〜」とグランドウィリーにウインクして八百屋に向かった。

「ふふーん?」
シミラはそれを見てにやりと笑うと、

「お前さんはどうじゃ? バレンタインは好きか?」

「雰囲気は好きです。ハートがいっぱいで。
楽しみたい人は楽しめばいいかと思いますけど…」

「心が広いのう。わしには無理じゃ」
シミラは両手を上げた。


「シミラおばあちゃんは、バレンタインのチョコを誰かにあげたりしないんですか?」
グランドウィリーはたずねた。

「わしのようなひねくれものがそんな可愛らしいことをすると思うか?」
ジロリとシミラが視線を向ける。

「たとえば、過去に好きな人とかいなかったのかなって… 」
グランドウィリーは気にすることなく純粋な視線を向けている。

「…」
シミラはため息をついた。


「昔のことじゃ。ずいぶんとな。
とても人の良い後輩が魔法学校におってのう。仲も良かったんじゃがなぁ…
伝えなかったのは、後悔しているかもしれないのう」

「…そうですか…」

「まあ、そいつは今頃立派な魔法使いになってるだろうさ。

それより、お前さんは、あの若造にチョコを用意しないのか?」

「えっ わたしがですか?」

「そうじゃよ。あいつにとっては恋人のようなもんなんじゃろ? お前さんは違うのか?」

グランドウィリーは考えると

「そのへんはよくわかりません…。
でも、もらって嬉しいんでしょうか? 面倒くさい行事だと言ってましたし」 

「まああの若造の場合は、気を使ってるのじゃろうな」

「えっ?」

「お前さんだったら、あげたくても物理的に用意できんじゃろ。だから関心がないふりをして、話題を避けようとしとるんじゃろ」

「そうだったんですか…!?」

「あ、いや、あくまでわしの想像じゃからな?」

「それは…ポピーに悪いことしてしまいました。でも、作れないので買って渡すことになると思いますが、シートに入れて走ってる間に溶けてしまうのではないかと…」

「ふむ」


「いいじゃろう。お前さん、わしの助手をせい。久しぶりに、ス“ウィ”ーツづくりに励んでみることにするか!」

「えっ!?」


★★★
その次の日の朝、ポピージュニアを送ってデデデ城の駐車場に帰ってくると、グランドウィリーは、

「ポピー、今日はわたし このあと出かけたいのですが、用事はないですか?」

とたずねた。

「ないよ。ていうか、いつも好きなようにしなよって言ってるじゃん」
ポピーはなぜそんなことを聞くのかというように返事をした。

「ありがとうございます!」
グランドウィリーはそう言うと、すぐに自分でエンジンをかけて駐車場を出てってしまった。

「?」
あっという間に去った彼女を見て、
そんなに嬉しいことでもあるのかな。と彼は首をかしげたが、今日の仕事をすませるためその場を後にしたのだった。


そんな日が何日かあって、バレンタイン当日がやってきたのだった。

★★

「みてみてー!兄ちゃん、これクラスの女の子たちからもらったよ!」

「すごいなお前、モテモテじゃんか!」

チョコの数で魅力は決まらないといいながら、弟のもらったチョコには嬉々と
褒め称えているポピーだった。

もちろん、ジュニアは明るく心優しく、しっかり者でリーダーシップもあるからこそクラスでも人気者なのだ。そんな弟が誇らしいのだろう。

「…」


「どうしたの?」

「ジュニア君、ちょっと席を外してもらっていいですか」
グランドウィリーが言う。

「えっ」

「りょうかーい! じゃ、ぼく先に帰ってお菓子たべてるね」

「えっ、ジュニア!??」


「がんばんなよ兄ちゃん!」


「は???」


「…どうかしたの?」

「実は、これを預かってきました」


「…?」


「イリーナからです。よかったら食べてください」


「…!」


グランドウィリーは事情を話す。


イリーナとは、去年のクリスマスの日にシミラの魔法でグランドウィリーが変身したポピー族の女の子だ。
手間のかかるめんどくさい魔法だとシミラは言っていたが、どうやら今回も変身させてくれたらしい。
ただ、チョコ作りの間だけ、というのが微妙なところではあるが…それでも彼女は楽しい時間を過ごしたようだった。


ちなみにできたチョコは溶けないように保冷剤をしっかり入れてくれたようだ。


「ごめんなさい、ポピー。わたしは、あなたがバレンタインにチョコレートをもらうことが迷惑だと言ってるのだと思っていたんです。でも、私が用意できないから、それで話題を避けようとしてくれたんですよね」

「な、なななんでだよ!? そんなわけないじゃん!!オレがそこまで気を使う大人に見える!??? 」


「はい。わたしには見えています」

グランドウィリーが微笑む。

「…そ、そお…ですか…」
真っ赤になった彼は一度視線を落としたが、




「ありがとう」
笑顔で礼を言った。



「開けていい? ここで食ってくわ」

「どうぞ」

蓋を開ければハートの形をしたチョコが3つ並んでいて、金箔をまぶしてあった。


「…いただきます」

少し緊張しながら一口。

目を閉じてしっかり味わう。

彼は思っていた。
合わせてくれなくたって、自分はそのままの君のことを好きでいるのに、と。

でも彼女のそんな優しさが自分の居場所にもなっていた。

何より、彼女は今のグランドウィリーの姿を嫌っているわけではなく、ちゃんとありのままの自分が好きで、その上で、イリーナとして好意を持ってくれているのだ。

それならこっちだって、応えていかなければならないのかもしれない。

「…甘いね」
思わず顔がほころぶ。

「甘すぎましたか?」

「ううん、全然」




跪くと、彼はグランドウィリーの瞼の部分にキスをした。

「!」
そして、

「大好きだよ、ウィリー」

そう言って抱きしめた。





…もらってしまった

彼女は思った。




「わたしも、大好きですよ。ポピー」

そう返す。
決して彼を抱きしめ返せない自分のままで。


…あげたかったのは、私の方なのにな


心の中で呟いていた。


(ここまで)

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