星咲く宇宙を君と
Kirby Fanfiction site
迷いの森のポピブラザーズジュニア
【ポピー兄弟】迷いの森のポピーブラザーズJr.
デデデ城のワドルディたちは、ワドルドゥ隊長からプププランドの歴史を教わっていた。
そんな中、派手にドアを開け、乱入してきた者がいた。
バアンッ
[uploadedimage:16383138]
ポピーブラザーズSr.(シニア)
通称:ポピー。
彼はこの城でデデデ大王を支える部下の一人。
ポピージュニアことポピーブラザーズJr.の兄であり、爆弾職人であり、中ボスたちのリーダーでもある。
技術と強さはあるのだが、どうも言動はおちゃらけている。
さて今回は、口上の通り…いつも被っているナイトキャップのような帽子を脱ぎ、ツルピカの頭を光らせつつ、白いシーツを首から下に被って、自分がてるてる坊主ということだ。
ワドルドゥやワドルディたちからしたら、中ボスサイズの彼が扮するてるてる坊主はなかなかの迫力がある。
「…いったいどうしたんだよ? ポピー」
ワドルドゥが呆れながらたずねる。
「いやー、明日さあ?
ジュニアの学校が遠足なんだよね?」
ポピーは笑ってそう言うと、
「つーわけだからお前らも協力しろ! このてるてる坊主様を拝め!」
と叫んだ。
わにゃー…とワドルディたちは顔を見合わせた。
ワドルドゥはため息をつくと、
「授業の邪魔だから出てってくれる…?」
と言って、ビームウィップの音をバチバチと鳴らした。
「だーっ!!! よせよせ! 出てくから!! ちょっとした一発芸だよ!? 怒んなって! な??」
『波動ビーム』
「ぎゃああああ!!!」
ポピーは直ちにその場から退散した。
「じゃーなお前ら! 明日は快晴だかんなーー!!」
「わにゃにゃ…」
いったいなんだったんだろう?…とワドルディたちは呆気にとられている。
「まったくもー…」
ワドルドゥはため息をつくと、授業を再開することにした。
◆◆◆
「まったく〜…冗談通じないヤツはやだよね〜」
ポピーはてるてる坊主のかっこうのまま、城内を歩き回っていたが、
そこに思わぬ人影が。
「兄ちゃん何やってるんだよ…」
「ジュニア!?」
ランドセルを背負ったポピーブラザーズJr.が立っていた。
「おま…学校はどうしたんだ!? まだ授業中だろ?」
「今日はC校時だよ? 早く終わるんだよ」
…しまった!!
「ごめんな、それ明後日って勘違いしてた。
…電話してくれれば迎えに行ったのに」
平地の学校から山の上のデデデ城まで帰ってくるのはなかなか大変だ。それで、兄のポピーはいつも送り迎えをしていたのだが…
「いーよ。これくらい自分で歩けるもん。それよりなんなのその格好? 恥ずかしいからやめてよ」
「うっ…!!」
「隊長とワドルディたちの邪魔しちゃだめだよ」
ふん! とポピージュニアはそっぽを向くと、
「じゃあぼくお部屋に戻るから!」
走って行ってしまった。
「ジュニア〜〜ッ悪かったよ〜! お兄ちゃんを見捨てないでくれ〜!!!」
ポピーは泣きながら弟を追いかけた。
◆◆◆
そんなこんなで、ポピーの努力の甲斐あって次の日は快晴だった。
本当は、クラッコとミスターブライトに頼み込み、土下座までして晴れにしてもらったのだが。
「よかった〜! すっごく楽しみにしてたんだよ…!」
ポピージュニアが窓の外を見ながらはしゃいでいる。
ポピーは彼のお弁当を作っていた。
海苔やチーズ、ハムなどを切って、弟の形をつくると、そのほっぺの部分に鮭のふりかけを少々。
「これでよし、と!」
◆◆◆
「おっはよー! ウィリー」
「おはようございます、ポピー。ジュニア君も」
お城の車庫に停まっている青い色のグランドウィリーバイクは、ポピー兄弟とはデデデ大王の部下になる前からの旧知の仲だった。
今は、ジュニアの学校への送り迎えやポピーのお使いの際に活躍してくれている。
「今日もよろしくな!」
ポピーが声をかけると、
「ジュニア君、忘れ物はありませんか?」
と彼女はたずねる。
ホイール部分の単眼がニッコリと笑顔になった。
「だいじょうぶ! 水筒もお菓子もお弁当も、ちゃーんと持ったよ!」
ジュニアはご機嫌で答える。
運転席に跨ると、背中にリュックサック、ヘルメットを被った弟を乗せた。
「さあ、行くぜ!」
「ゴー!ゴー!!」
ポピーブラザーズwithグランドウィリーは、丘の下の学校目指して走り出した。
◆◆◆
グレート・ビューティフル・デデデ公園。
この口に出すのがバカバカしくなる公園の名前はもちろん大王の命名で。この公園の設立と資金の提供を彼が行ったためだった。
名前こそひどいが、遊具も豊富に揃って、環境も整っていて、子供たちや子育て中の家族に人気のスポットでもある。
ポピージュニアは兄とよく遊びに来ていたので、遊具の場所や遊び方をよくわかっていた。
今日は学校での仲良しの友だちと遊べるので、楽しくて仕方がなかった。
皆と夢中で遊んでいるうちに、時間はあっという間に過ぎていった。
さて、お待ちかねのお弁当の時間だ。
「…なに…これ」
お弁当の蓋を開けると、ポピージュニアは真っ白になって固まってしまった。
「…ポピー君のお弁当…なんかすごいね?」
お城では兄の方が「ポピー」弟は「ジュニア」だが、
ここでは彼の呼び名が「ポピー」だ。
隣りに座っている、仲良しのキャピィ君が目をパチクリさせている。
「…」
彼のお弁当の、チーズやハムなどを切って作ったポピージュニアを模した盛り付けは本当によくできていて、本人そっくりで可愛らしいのだが、問題はその横だった。
海苔をデザインカッターで切りぬいて、
「愛しのジュニア♡らぶ」と書かれている。
「愛」の漢字までしっかり綺麗に切り取っており、もはや職人技だ。
「なんか『頭痛が痛い』みたいなことになってない?」
ツイージー君がツッコミを入れた。
「新婚さんの作るお弁当ってこんな感じかも〜」
その他、クラスメイトたちは次々に感想を言って笑った。
「〜〜ッ」
…あのアホ兄貴!!
なんっっって恥ずかしい弁当つくってんだ!!!
と、ポピージュニアは心の中で思った。
そして、
「…うちの兄ちゃんバカだからさぁ…。変なお弁当作らないように注意しておかなくちゃねぇ…」
と、なんとか平然を装って、笑顔を作った。
ピクピクと眉が引きつっているが…
キャピィ君はそんなポピージュニアを気の毒に思って、
「ポピー君ち、お弁当の日はお兄ちゃんが作ってるんだよね?」
と声をかけた。
「そうだよ〜」
ポピージュニアはそう言いながら、繊細かつ美しく切り取られた「愛」の文字に、お箸をぶっ刺した。
「学校の送り迎えもしてくれてるし、優しいお兄ちゃんだよね」
「…まあ、それはそうなんだけどさ…」
ジュニアも兄のことを褒められて、悪い気はしない。
もちろん嬉しいのだが、なんやかんやで素直に喜べないお年頃でもある。
「ステキな兄ちゃんじゃない!」
女の子のお友だち二人がそういう。
「わたし、しってるよ! ポピー君のお兄ちゃん、でっかい青いウィリーバイクに乗ってお迎えしてくれてるの」
「え〜!かっこいい!!」
…かっこいい、ねぇ…
何も知らない女の子たちに、苦笑いを浮かべるポピージュニア。
「まあ、黙ってればね…黙ってれば。」
一応、中ボスたちのリーダーをしていて、普通に強いし…仕事に集中している姿は尊敬しているのだが、
…言動がなぁ。おっちょこちょいだし、間抜けだし…
ジュニアは泣きたくなってきた。
「いいなぁ。わたしもそんなお兄ちゃんほしいかも〜」
「え?欲しいんならあげるよ??むしろもらって???」
ジュニアはすかさず言い返す。
「うちは一応お母さんが作ってくれるけど、いつも忙しいから冷凍食品だもん」
バウンシーちゃんがそういう。
「うちもー」
それを聞いて、
「…そうなんだ?」
ポピージュニアはぽつりとつぶやく。
「でも忙しいなら仕方ないんじゃない?
うちの兄ちゃんはぐーたらしてるからこんな変なの作れるほどヒマなんだよ」
彼はそう言って笑う。
…みんなせっかくお母さんとかいるんだし、あんまり悪く思ってほしくないもんな
なんとなく、そう思ってしまう。
ポピージュニアは物心ついた時から両親はいなくて、兄と一緒だった。
兄からは、自由に生きたいからってまだ赤ちゃんの自分を連れて家を飛び出して、デデデ大王の部下になるまでは一人で自分を育ててきたと彼は聞いていた。
確かに優しいところもあるが…バカでドジで間が抜けていて、無茶ばかりする兄には自分も子どもながらに相当苦労をさせられたものだった。
その分しっかりしないとと、彼なりにがんばらなけれならなかったし。
できることなら、こんな(お馬鹿な)兄貴ではなく、両親のもとで平和に暮らしたかった…。
そんな思いがあった。
「それでは自由行動の時間です! 危ないところには絶対にいかないようにね〜」
アイスドラゴン先生が言うと、生徒たちは「はーい!」と返事をしてそれぞれの、行きたい場所へわかれていった。
◆◆◆
キャピィ君たちとアスレチックで遊んでいたポピージュニアは、
「ちょっとトイレに行ってくるね〜」
と一旦彼らと離れた。
そして、トイレから戻る途中で、
「この奥にある川って、すごく綺麗みたいだぜ」
「マジ? 行ってみようぜ」
彼は同じクラスの悪童二人が話しているのを聞いた。
「…!」
この二人は、先生が入ってくる時に黒板消しをドアに挟んでいたずらをしたり、先生の持ち物を隠したり、困ったことばかりしている問題児だった。
「ねえ、だめだよ! 危ないところにはいっちゃだめって先生が言ってただろ?」
ポピージュニアは声をかける。
お城のバンダナワドルディを尊敬しているポピージュニアは、ややお節介のところも彼の影響で、正しいと思うことはしっかり行動する性格に育っていた。
「なんだよ、お前のことなんて誘ってねーぞポピー」
「そうだぜ、ひっこんでろよ」
「ちょうど君たちが話してるの、聞いちゃったから。
そういうところは大人の人と一緒に行かないとだめだよ」
「いい子ぶりやがって。」
「お前、こわいんだろ? 大人がついてないと」
そう言われて、ポピージュニアはむっとすると
「じゃあ、君たちは本当にこわくないの? もしも怪我したら痛いし、何かあったらお母さんが悲しむんだよ?」
「…」
「俺らのかーちゃんは別に悲しんだりしねーし。関係ねーよな?」
「なー?」
「そんなわけないだろ!」
ポピージュニアは怒ったが、
「お前んちは兄ちゃんしかいないんだろー?」
「本物の母ちゃんがどんなもんか知らないくせに、知ったかぶりすんなよ?」
「…!」
ポピージュニアは、そう言われてショックだった。
確かに、本や映画に出てくる温かくて優しいお母さんしか知らないが…
とにかく、悪童二人にそう言われて、彼は言い返せなかった。
「…」
「行こうぜ!」
「あ! 待ちなよ!! そういう問題じゃないんだからな!!」
彼らを心配したポピージュニアは、二人を追いかけることにしたのだった。
◆◆◆
森の道なき道を歩いて奥の川にたどり着いた二人は
「すっげー! 」
「虹がかかってるじゃん」
と喜んでいた。
ついてきたポピージュニアも
「ほんとだ、綺麗…!」
と感激した。
兄ちゃんにも教えてあげようかな、とこっそり思ったが、さきほどの恥ずかしいお弁当を思い出して
「いや、やめておこう…」
と呟いた。
「水遊びしよーぜ!」
「ギャハハ!」
「ええっ!?」
彼らは服を脱いで水遊びを始めてしまった。
「まったく…」
ポピージュニアはそれには参加せず、歩き疲れたので一旦座って休むことにした。
◆◆◆
「おーい、気が済んだろ!? もう帰るよ!」
「なんだよお前」
「オレらの保護者かよ」
「ちょうど終わりにしようと思ってたんだよ」
「さっさと帰ろうぜ!」
二人はパンツやズボンを穿いて戻ってきた。
◆◆◆
ところが、
三人はみんなのもとへ帰ろうと歩いていたが、なんだがおかしいことに気づく。
「なんだか、ここ…さっきも来なかった?」
ポピージュニアが言う
「えっ…そうか?」
二人はあたりを見渡した。
「そうだよ。だってここ、座った時に同じ花が3つ並んで咲いてるなぁって思ったから…」
「ええ!?」
「だって、さっきからけっこう歩いてるよな!?」
「…うん」
「迷ったのかな? オレたち…」
「わーーーん!! どうしよーー!!?」
悪童二人は抱き合って泣き出してしまった。
「…」
…自業自得じゃんか…
ポピージュニアはため息をついた。
「こうなったら、歩き回る方が危ないかもしれないよ。見つけてもらうのを待とう」
「ええーーー!?」
「せめて、リュックがあったらよかったんだけどな…」
いつも兄に電話している子ども用のケータイはその中だった。
食べきれなかったお菓子もあった。
先生たちが、ここに気づいて探しに来てくれるだろうか…?
…兄ちゃん…
ポピージュニアは木陰に座ると、目を閉じて、心の中で兄を思った。
◆◆◆
その頃。
…ジュニアのやつ、遠足楽しんでるかな〜?
ムフフと笑いながら作業をテキパキとこなす兄の姿があった。
ポピーは、お城に発注されたシャッツォの補填用大砲の弾をこしらえながら、弟の笑顔を想像して、ほっこりと…幸せを味わっていた。
出来上がった弾を厳重に梱包すると「危険物」のシールをでかでかと貼って、宛名を書く。
「よし、おわり!」
今日の仕事が済んだ彼は、そろそろ迎えに行く時間かなぁと時計を見る。
「げっ…もうこんな時間か! 」
ポピーは慌てて部屋を飛び出した。
◆◆◆
「あれ?」
ポピーとグランドウィリーが学校へつくと、他の学年の子が帰っていく中…ポピージュニアのクラスは真っ暗のままだ。
その時、ポピーの携帯に電話が鳴る。
「?」
アイスドラゴン先生からだ。
…え、なんで担任から電話が来んの…?
もうとっくに学校に帰ってきているはずなのに。
ポピーは嫌な予感がした。
彼はグランドウィリーのエンジンをかけ、跨ると電話に出た。
「先生、オレです。ポピージュニアの兄のシニアです」
『ポピーブラザーズSr.君! ごめんなさい…ジュニア君が…自由時間にいなくなってしまったの』
◆◆◆
ポピーとグランドウィリーが グレート…うんちゃらデデデ公園につくと、
先生たちが探し回っている間、生徒たちは、クラスごとに並んで座って待たされているという状態だった。
「ポピー君のお兄ちゃん!」
キャピィ君が叫んだ。
彼やお友だちの皆も、一緒に遊んでいた途中でいなくなってしまったポピージュニアのことをすごく心配していた。
「トイレに行ったまま、帰って来なくて…」
子どもたちはそう言って、泣き出した。
「ごめんな、心配かけて。」
よしよし、頭を撫でてやる。
「ポピーシニア君!」
担任が走ってきた。
「すみません、弟が、ご迷惑をかけてしまって…」
ポピーは頭を下げた。
「とんでもないわ…私が監督不届きで…こんなことになってしまって…」
担任も頭を下げる。アイスドラゴンはもともと顔の青い種族だが、心配のせいか、さらに真っ青だ。
「いや、こんなに子供いたら一人で全員見るの大変ですよ…本当にすみません」
彼は改めて謝る。
「あとはオレが探しますから…他の子は帰らせてあげてください」
◆◆◆
「え? いなくなったの、うちの弟だけじゃないんですか?」
「二人はクラスでもちょっと困った子で…きっとまた何かいたずらを考えて、ポピー君は巻き込まれたんだと思うわ」
アイスドラゴン先生は説明した。
「二人の親とは連絡はついてるんですか…?」
保護者らしき人物が他に見当たらないのでポピーは聞いた。
彼女は首をふる。
「わかりました。その子たちも捜しますよ」
ポピーは頷いた。
アイスドラゴン先生と他のクラスの教師たちは、ひとまず他の生徒たちを返したあとで捜索に加わると約束して、バスを発車させた。
「さて、探すか…」
ポピーはだだっ広い公園の景色を見渡した。
「…暗くなってくると…グリゾーも餌を探すだろうし、マンビーズもうろつきはじめるだろうな…」
「…そうなる前に見つけ出したいですね…」
グランドウィリーも答える。
◆◆◆
「ジュニアー!! いたら返事してくれ〜」
が、返事はない。
川のせせらぎの音と鳥の声は聞こえているが…
子どもの声らしい音も、草を踏む足音も聞こえてこない。
「なんで見つかんないんだろ? マップがループするようになってんのかな?」
「それはRPGのやつですよ…」
「爆弾使って煙を上げてみるか!」
「そんなことしたら山火事になりますよ!」
とんでもないことを言い出すポピーにグランドウィリーはツッコミを入れる。
「…だなぁ」
ポピーは神妙な顔で頷く
「どーしよ…」
「こんなに静かな森なのに、わたしたちの声は聞こえないなんて…」
「静かな森… 静かな…。…ん?」
ポピーはハッとして
「そうだ! 思いついたぞ!」
◆◆◆
一方その頃のポピージュニアたちは。
「来ないね…誰も」
すっかり意気消沈した悪童二人は、
「お腹へったなぁ」
「オレたち、このまましんじゃうのかなぁ」
と泣き言を言い出した。
「バカなこと言うなよ!」
ポピージュニアは怒って
「君たちに巻き込まれて死ぬなんて、ぼくはごめんだからね!?」
…そんなことになったら、あの親バカ…いや兄バカ、違う…ブラコン兄貴が、どうなるかわからない。
情けない顔をして大泣きする姿はすぐに想像がつくし、
もしかしたら後を追って黄泉の国まで追いかけてくるかもしれない。
しかし、自分はいい子にしているので天国へ行けると思うが、兄は間違いなく地獄への急行列車に乗せられてしまうことだろう。
…追っかけてきても同じところには来れないよってちゃんと伝えとかないと!!
そう、謎の使命感に駆られたところで、
…ていうか、なんでぼくが困ってるのに兄ちゃんの心配をしなくちゃなんないんだよ!!
彼は頭を抱えて、深ーーいため息をついた。
そんな時だった。
「ん?」
悪童の一人が振り返る。
「なんか、すげー音聴こえるけどなんだ?」
!
ジュニアも彼に駆け寄った。
「待って、この音は…!」
◆◆◆
森の木々をなぎ倒し、枝を踏みつけ、タイヤの後をくっきりつけながら…派手なエンジンをふかす音を立て…やってきたのは、
「にいちゃん!!」
彼の兄、ポピーブラザーズSr.と、おなじみの青いグランドウィリーバイクだった。
「ジュニア!!」
ポピージュニアは兄を見つけるやいなや駆け出して、
飛びついた。
「来てくれると思ってたよ…!」
「おお…!」
いつもはツンツンしている弟の貴重なデレ(?)に、思わず兄も顔がほころぶ。
「ばっかだな〜!!当たり前だろ〜? も~ッ!」
あつ~いハグに加えてほっぺにすりすりしちゃう。そして、よしよしもしちゃう。そんな兄だった。
「…い、いや、やめて? 恥ずかしいから…」
弟の方は我に返ってドン引きモードだが…
そんな兄弟の様子を、悪童二人もポカーンとしながら見ていた。
「お前らは大丈夫か? 怪我とかしてないか?」
ポピーがたずねると、
二人は顔を見合わせて、またこちらを向いて、こくりと頷いた。
「怖かったろ? さ、帰ろうぜ! 」
ポピーは笑顔で声をかけた。
◆◆◆
グランドウィリーがタイヤの跡をつけてきたので、それを辿って帰る一行だった。
ある意味ちょっとした環境破壊ではあったが…人命がかかっていたので、なんとか許される…ことだろう。たぶん。
ポピーは三人が無事見つかったことを担任に報告して、電話を切った。
「いやーよかったよ。変に歩き回ったら、見つからなくなるところだったぜ」
と後ろを見ると、悪童二人はしょんぼりしながら歩いている。
「どうしたんだよ? 無事帰れて、嬉しくないのか?」
ポピーは二人に聞いた。
「母ちゃん、怒るだろーな…って」
「俺、家に入れてもらえないかも…」
悪童二人はうつむいたまま答えた。
「自分が悪いんだよ? 君たちは!」
ポピージュニアは怒って口を挟んだ。
「ぼくは危ないって止めたんだからね。なのに、言うこと聞かなかったんだもん!」
彼はそう言って、
「ぼくのことも、弱虫扱いしたし…」
とふくれっ面をした。
「そっか…」
ポピーはジュニアの頭を撫でる。
悪童二人は、それぞれ、
「…本当は、おれ、帰りたくなくて…」
「怖かったけど、やっぱり…このまま見つからなくても良かったかなぁって…」
と、今の心境を呟いた。
「なるほどねぇ…」
…帰りたくない、家…か。
ポピーは遠い昔の日々を思い出して、苦笑いを浮かべた。
「君たちさあ、本当にそう思ってるの? お腹すいてるって言ってたじゃん。今すぐご飯たべたくないの??」
ポピージュニアが言う。
ぼくは腹ペコだよ! と付け足して。
「お前が羨ましいよ、ポピー。こんなカッコいい兄ちゃんがいてさ」
悪童一人がつぶやく。
「えっ」
ポピージュニアが驚くと、
それを聞いて、
「え、カッコいい!? カッコいい??」
ポピーが目を輝かせて、彼に詰め寄った。
「あ、すみませんたぶん勘違いです!」
ポピーの勢いに慌てて彼は発言を撤回した。
「ガーン…」
「兄ちゃん…?」
ポピージュニアは険しい顔を兄に向ける。
「なんだよー! 素直に褒めてくれて、可愛いやつらじゃん?」
とポピーは口を尖らせる。
「全然可愛くないよ! いつも意地悪したり、先生の物隠したり、けっこう悪いことしてるよ、この子たち」
「見りゃ分かるよ」
ポピーは言った。
「見るからにひねくれてそーだもんな。どーせ、皆の困ることばっかやって、注目されようとしてるんだろ?」
「…」
二人は顔を見合わせた。
「なあ。お前らはさ、そんなことしなくても…生まれてきて、すっげーーーー価値があるんだよ。」
「え?」
「色んな大人がいるから…ガキの時にそう言ってもらえないやつもたくさんいるだろうけど、それはもうしょーがないっていうか…運命みたいなものだから。
でもその分、大人になれば、楽しいこともいっぱいある。選びさえすればさ。
だから、オレは言ってやるんだ。
親とか、周りの大人がほう言わないなら、自分で思うしかないだろ?
お前らも、そうなんだったら、思えばいいんだよ」
「……」
悪童たちは驚いた顔のままだ。
「…そうなの…か、な? 」
二人はそれぞれ考えているようだった。
「兄ちゃん…?」
ポピージュニアは兄の背中を見た。
いつものおちゃらけた言動…ふざけた発言。
そして思い出すだけで頭を抱えたくなるブラコン発言。
それらとは違う、きっと何か…彼なりに、大事なことを伝えたい意志を持った言葉。
そう思えたからだ。
…それって、どういう意味なの?
その表情は見えない。
どんなことを思ってそう言っているのか。彼にはわからなかった。
ずっと、両親は普通に良い人で、自分勝手に自分を連れて出ていった兄によって、苦労をさせられたと思っていたけれど…
実際はどうだったのか。
今はまだ、それを聞く勇気はなかった。
彼が読んでくれた絵本や、映画に出てくる温かい家庭を信じていたかったのだ。
「さあ、見えてきたぜ!」
◆◆◆
広場に戻ると、学年の教師たちと教頭。そして、
「ワルドー!!」
「ゴクドー!!」
そして悪童二人の母親の姿があった。
名前をよばれた二人は驚いて立ち尽くしていた。
「ママ…」
「かーちゃん…」
「ちゃんと迎えに来てるじゃんか」
ポピーが振り返って声をかけると、
二人は走り出した。
「ママーーー!!」
「かあちゃーーーん!!! 」
まあ、そのあとは…お尻をひっぱたかれたり、ガミガミとお説教されたり…といった具合だったが。
とりあえずは、一件落着だった。
◆◆◆
すっかり暗くなってしまった帰り道。
ポピーブラザーズwithグランドウィリーは家路(城路?)を急ぐ。
「グランドウィリーもありがとうね」
ポピージュニアは彼女にもお礼を言った。
「本当に無事で何よりでした」
ホイール部分の目が笑顔に変わる。
そして、
ポピージュニアは兄の背中に顔を埋めると、
「兄ちゃんは…バカだけど、やっぱり頼りになるよね…」
と、真っ赤になって
「ありがとうね。探しに来てくれて」
お礼を言った。
「…」
ポピーは無言だった。
「?? 兄ちゃん、どうしたの?」
いつもなら大喜びする兄が何も返してこない。
ジュニアは心配して、聞いた。
が、その必要はなかったようだ。
「なあ…その『バカだけど』って、要るか…?…」
そう、涙目で答える兄だった。
ポピージュニアは安心すると、
「必要だよ! だってすぐ調子に乗るんだもん!!」
と言い返す。
「なんだよ!どいつもこいつもオレのことバカ、バカって!!」
ポピーは喚くと、
「そんなこと言わないのグランドウィリーちゃんだけよね…?」
と、足元で走っているグランドウィリーを見ると、
「いえ、わたしもジュニア君に賛成です」
すかさず彼女も答えた。
「わーん!! 大王さま〜! オレこんなプププランドきらーい!!!」
ポピーの情けないわめき声が響く中、
長かった一日が終わろうとしている。
お城ではいつものようにワドルディたちが、彼らを迎えてくれたのだった。
(ここまで)