星咲く宇宙を君と
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【ドゥディ】君と選ぶ 刹那と永遠
デデデ城を離れ自分たちの人生を選んだ二人の話です。
「…いつの間にそんな力をつけていたんだ?」
「バンダナ君を連れて行く時は、必ずあなたと戦うことになると思っていましたから。」
「…そこまで予想済みだったということか…」
「こっちには、彼と僕と、二人分の人生がかかっているので。
でも、もし話し合いでは納得してくださらなくても、強さを持てば認めてくださる方だと信じていました」
「ちっ」
デデデは舌打ちすると、
「さっさと出ていくがいい! お前は二度とここへ戻ってくるんじゃないぞ!!
それに、もしバンダナがここへ逃げ帰ってくるようなことがあったら、絶対に許さんからな!!!」
デデデはそう怒鳴って、そっぽを向いた。
「はい。…ありがとうございます」
ワドルドゥは深く頭を下げると
「今まで、お世話になりました」
そう言って、踵を返した。
「ふん」
「…それはこっちの台詞だ、バカ者…」
デデデは悪態をつくと、彼に背中を向けたまま、
「…ありがとな、長い間」
と一言告げた。
ワドルドゥ一度立ち止まったが、振り返ることなくその場を去った。
◆◆◆
「ドゥ!」
バンダナワドルディは城の外で待っていた。
愛用のバンダナを外し、一人のワドルディの姿で、
二人分の、最低限の持ち物とを荷車に積んで。
デデデ大王との勝負から帰って来た姿を見て駆け寄る。
「大丈夫だった?」
「うん。なんとか認めてもらえたよ」
あちこち怪我してボロボロだったが、彼はけろっとして、
「自分を倒してから行けなんて、あの人らしいよね」
そう、笑った。
「…そうだね…」
「それだけ、あの人も君のこと、大事に思ってたんだと思うよ」
「…!」
「本当にいいの? 君は、これで。」
「…え?」
「君が、まだあの人の傍にいたいなら…僕だけ出ていってもいいんだよ」
「!」
バンダナワドルディはワドルドゥを抱きしめる。
「…そんなこと言わないで! ボクが選んだのは、君だよ」
「!」
「もうボクを縛る呪いもない。幸せを選べるんだもの。…そうでしょ?」
バンダナワドルディはそう言って、
「一緒に幸せになろう」
抱きしめる腕を強めた。
「じゃあ、ちょっと待って」
ワドルドゥはバンダナワドルディから一度離れると、その手を取った。
「これは、僕が君におくる『呪い』です。
僕の全人生をかけて、君の望みを叶えます。
これからは、僕だけを見てください」
そう言って、贈り物を渡す。
バンダナワドルディはその箱を受け取って、蓋を開けた。
それは人間で言う、婚約指輪だった。
一頭身の彼らがそれをはめるとリング部分は見えなくなり、ダイヤだけが見える…という具合だ。
バンダナワドルディは微笑むと、
「…はい。約束します」
そう応えた。
そして、お互いの指輪をはめ合って、キスをする。
華やかな結婚式でもなんでもない、誰に祝われるわけでもない、たった二人だけの儀式だった。
ただひとつ。
「!」
…おめでとう!
春風の祝福を除いて。
温かい風が二人の間を吹き抜けていった。
「…!」
「…」
…カービィ?
バンダナワドルディは、かれの声がきこえた気がした。
「君も聞こえた?」
ワドルドゥもたずねる。
バンダナワドルディは頷くと、
…ありがとう…
そう心の中でつぶやいて、涙を拭った。
◆◆◆
「じゃ、いこっか」
二人は荷車を引いて歩き出す。
「バンダナ君、新しい住居のことなんだけど…」
「ねえ」
「? 何?」
「もうバンダナをつけてないから…違う呼び方がいいな」
「!」
「それは、そうだね」
ワドルドゥは少し考えると
「何がいい? ワド、とか?」
「ワドは、君もでしょ?」
「うーん…そうか…」
「ディは? 僕がドゥだから、君はディ…」
「!」
「…短すぎるかな」
「いいね。ディがいい…!」
「いいの?」
「それにしよ。 ね?」
「わかった。じゃあ、よろしくね…ディ君」
ふふ、とワドルディが笑う。
「何か変?」
「…当たり前みたいに『君』ってつけるから」
呼び捨てでいいんだよ? と彼は言うが
「そこは譲れないポイントだよ」
ワドルドゥはそう返す。
「でも、きみが嫌だったらやめるよ? もちろん」
「まさか。いいよ、譲れないポイントの方で…!」
嬉しいのか、くすぐったいのか。ワドルディは笑っている。
「?」
◆◆◆
二人は新しい住居に家具を置き終わって、ソファーに腰掛けていた。
「ふー、疲れたね」
「お茶でもいれようか」
「うん。そうしよ!」
「夜の一度だけだったティータイムが、昼にもできるなんて、なんか贅沢だなぁ」
「…きっとそのうちその有難みはなくなるよ」
ワドルドゥが笑う。
「えっ」
「これからは、それがあたりまえになっていくのだから」
「…」
ワドルディは顔を赤くして、
「そうかもしれないけどさ、人が感激に浸ってるところに水ささないでよね」
と文句を言った。
「うん、わかった」
ワドルドゥもお茶を飲む。
「ね」
ワドルディがワドルドゥを見つめる。
ワドルドゥは、カップを置く。
そして、
「おいで? ディ君」
と両手を広げた。
ワドルディは彼に飛びついて、その(見えない)唇を奪った。
数秒のキスの後口を離せば、今度はワドルドゥがワドルディをソファーに押し倒して、こちらからキスを送る。
窓から差し込む夕日が部屋を紅く染めていた。
ワドルディが求めるように口を開くと、それに応じ…舌を絡め、二人はお互いの熱さを分け合った。
◆◆◆
半年後。
二人だけの生活もだいぶ落ち着いたある夜のことだ。
ドオン、と
音がしたかと思えば、少し控えめの花火が上がる。
小さめではあっても、色とりどりの鮮やかな光が煌めいた。
「何事!?」
二人は驚いてサッシを開けてベランダへ出る。
「お〜い、お二人さん!」
外を見ると、見覚えのある人物が手を振っていた。
「ポピー!?」
彼は随分前にデデデ城を離れ、爆弾と花火の職人として独立していたのだが、
可愛い弟たち…ならぬ、従者仲間たちのことを聞いて、
愛車(?)の青いグランドウィリーと一緒に駆けつけたのだった。
◆◆◆
「せっかく来たんですからお茶でも飲んで行ってくださいよ!」
ワドルディがそう言うと、
「いやーそんなおかまいなく…!」
ポピーはそう言って、
「お熱いお二人さんの邪魔しちゃあいけませんからね…?」
ニヒヒ、とワドルドゥに耳打ちした。
「…入って? …ね??」
ワドルドゥが睨みを利かせ、
「了解いたしました!」
と彼は素直に二人の部屋に招待されることとなった。
◆◆◆
「何がいい? アッサムとベルガモットとカモミールにローズヒップ…」
「そんなに色々あんの…? 喫茶店できるレベルじゃん」
ワドルドゥはふふ、と笑うと
「君にお茶淹れることなんてなかったもんね」
「はあ?」
ポピーは首を傾げる。
「あたりまえだろ? 従者が従者に茶淹れてどうすんだよ。毎晩お茶会してたお前らとは違うんだぞ…」
彼は最近できたというケーキ屋からお祝いのケーキを買って来ていた。
「うわー、可愛い…!」
ワドルディは感激している。
◆◆◆
「へー、ディって呼んでんのか。んじゃ、オレもそう呼ぶわー」
「えっ…どんな感じにですか?」
「ディちゃん…?」
「やっぱりそこはちゃんですよね? 呼び捨てか」
「ん?」
「あなたには呼ばれたくないです!」と文句を言ってくると予想していたポピーがキョトンとしていると。
「ドゥったら、ディになっても君ってつけるんですよ」
「マジかー!」
ポピーはお腹をかかえて笑いだした。
「嫌だったらやめるって言ったじゃないか…」
ワドルドゥはからかわれて文句を言ったが
「ううん、やめないで」
ワドルディは首をふる。
「なんだよ、もう」
ワドルドゥは顔を赤くする。
「あはは、ヒューヒュー!」
ポピーは両手を叩いて大笑いする。
◆◆◆
「お前らも元気でやってそうね?」
「毎日楽だよ。仕事から帰ればのんびりすごせるし」
「わがままで自分勝手でめんどくさい上司もいないしな!」
ポピーは笑う。
二人の勤め先は別々だが、どちらも人間関係は良好だった。
二人がそれぞれ仕事ができ、周りに気を使える人物だということもあって、大事に思われているようだ。
「でも、オレは嫌いじゃなかったよ? 面白い人だしな」
「それは僕らもだよ」
二人も頷く。
「大王さまは、元気かい?」
ワドルドゥがたずねる。
ワドルドゥはデデデ城に出禁を食らっているので、その後一切連絡はとっていないし、ワドルディもワドルドゥを思って会いに行くようなこともなかった。それは彼なりのけじめだった。
「んー、ちょっと老けたかな? 前に比べりゃ…」
ポピーは先日注文を届けに行った時のことを思い出しながら言う。
今は、元ワドルディ隊の一人だった二代目バンダナワドルディがデデデの側に付いている。時々デデデの注文を間違えるおっちょこちょいなので、逆にデデデはしっかりせざるをえなくなってしまったが、悪い気はしないらしい。
また、ワドルディ隊の隊長は新しく入ったワドルドゥが担当している。ドゥとは違ってせっかちで、元気で、声も高い、とても可愛らしい隊長だ。
「カービィもああなってからほとんどしゃべらないままだしな。」
「…そう」
ワドルドゥはお茶を飲む。
当時のことを思い出す。二人が結婚する約束をした直後にやってきた、ワールドツリーの異変とフロラルドの厄災。その際にカービィは、タランザの操りの術にかかったデデデに殺されてしまった。
そして1upの蘇生で生まれ変わった新しいカービィがそのデデデを倒し、無事もとに戻ったのだが…
生まれ変わったカービィは、中身がまったくの別人だった。
「…つらかったです、あれは」
ワドルディが呟く。
当時カービィに同行した彼は、この城で唯一その瞬間の目撃者となった。
カービィは生きているのに、もう自分たちが知っているカービィじゃない。
それは、あの子が、自分がもう生き返らない代わりに、僕らに残そうとした希望だった。
今でもこの出来事をどう受け止めるべきか迷うことがある。
「…」
ワドルドゥはワドルディを見た。彼にとっても辛い記憶を呼び起こしてしまったからだ。それに気づいて、
…大丈夫だよ
ワドルディは微笑む。
「まあしょうがなよな? あの人があいつを好きになって、それに応えた結果なんだからさ…」
ポピーがそう言って、
ワドルディは頷く。
「大王さまの決めたことは、大王さまがなんとかしますよ」
彼はそう言うと
「僕らは、僕らの人生を。最後までまっとうしましょう、ポピー。」
そう言って、微笑んだ。
ポピーは驚いていたが、
「へへ、そうだな!」
いつものように笑う。
「なんか変わったじゃん、お前」
ポピーはそう言うと
「愛の力ってやつか?」
とワドルドゥにニヤニヤしながら耳打ちする
「…波動ビーム撃つけどいい?」
「だ〜!?やめて!! これ買ったばかりのジャケットなの!!」
ワドルドゥもワドルドゥで、無言ではなく、ワンクッションが置けるようになっていた。
三人は笑い合う。
それぞれに、
色々抱えて生きてきながら、あの人を支えてきた仲だ。
「まあ、あまり言いにくいけどね。職場の人とかには」
「うん。ボクもこの前どんな人と住んでるのか聞かれて困っちゃったよ…」
「え? …それって君に好意があるんじゃない?」
ワドルドゥがすかさず詰め寄る。
「えぇ!? まさか!」
「そうだよ。奥さんや彼女がいるか聞いて、いなければじゃあ私が!! って流れになるやつだよ」
「ええっ!!?」
「なんて答えたんだよ?」
ポピーもたずねる。
「た、大切な…ひとと住んでます、って…」
ワドルディは顔を赤くして俯いた。
「…!!」
「その顔で言われちゃ、そいつも『あ、こりゃだめだ…』て思うんじゃね?」
ポピーは笑ってワドルドゥを見るが、
「…」
彼は無言だ。
「? 大丈夫か?」
「…今日もバンダナ君が尊い…」
「おい!城にいた頃に戻ってんぞ!!!」
◆◆◆
「ドゥ隊長とバンダナさん、元気そうでよかったです」
「今はバンダナじゃなくてディなんだってさ」
「まあ、可愛い…!」
「グランドウィリーも一緒に来てくれてありがとうね」
ワドルディが声をかける。
「ポピーには私がついてないといけませんから」
「え、 要る? そのアピール…」
ポピーはそう言うと、
「まあ、その通りだけどさ。こんな感じでお前らみたいにラブラブなわけ♡」
と自慢した。
「ラブラブではないです」
「ガーン! オレが思ってただけ?」
四人(三人と1台)は笑った。
ポピーもポピーで、一人と1台というそれはそれで色々ありそうな関係だが…彼らなりに楽しくやっているようだった。
「じゃ、またな! 邪魔したな!」
「お幸せに…!」
ワドルドゥとワドルディは彼らの姿が見えなくなるまで手を振った。
「戻ろっか」
「うん」
二人は手を繋いで、部屋の扉を開け、静かに閉じた。
これからも、二人で、今と未来を選んでゆくのだろう。
共に生きて行けることの喜びを、伝え合いながら。
(ここまで)