星咲く宇宙を君と
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【ドゥディ】愛されたい子
自分を恋人として見てもらうために女の子になる薬を飲もうとする情緒不安定なバンダナワドルディと、それを止めるワドルドゥのお話です。
「お約束の品です」
フードを深く被った人物がそれを受け取る。
「これを飲めば、なれるんですよね」
「もちろんですとも」
「ありがとうございます」
「あなたに祝福がありますよう」
◆◆◆
その夜。
「…」
バンダナワドルディは行商から受け取った小瓶を見つめていた。
「バンダナ君、起きてる?」
コンコンとドアがノックされる。
「!」
◆◆◆
「遅かったね。残業だった?」
バンダナワドルディはドアを開けた。
「?」
ワドルドゥは時計を見て、
「いつも通りの時間じゃない?」
そう答える。
「!」
バンダナワドルディは、しまった、という顔になると
「早く会いたくて、時間が長く感じちゃったのかも」
「誰に?」
ワドルドゥが、とぼけると
「君に決まってるじゃない!」
バンダナワドルディが笑う。
「…?」
なんだか様子がおかしいな。
ワドルドゥはそう思ったが、
「なんか、疲れてるみたいだから早めに切り上げようか」
と、いたっていつも通りのことを言う。
「え、いいよいいよ!」
バンダナワドルディは首をブンブン振って
「今日は何にしたの?」
「ラベンダーだけど…」
「いいね! よく眠れそう!」
さ、早く早く、といつものテーブルに手招きする。
…やっぱりなんかおかしいな
◆◆◆
引き出しから覗く小瓶。
「?」
普段は彼の部屋のものに触ったりしない彼だが、何かすごく嫌な予感がしてしまう。
そういう時には躊躇しない彼は、ガラッと引き出しを開けた。
「!」
◆◆◆
「バンダナ君…これは、何?」
「そ、それは…!!」
バンダナワドルディは慌てて走ってくると、小瓶を取り上げた。
「や、やだなー!! 勝手に見ないでよ!!」
「女の子になれる、薬って…どういうこと?」
「わっー!! わっ!! わー!!!」
大声を出す
「ちょ、ちょっと興味があって買っただけだから、」
「それ、見た目がってこと? それとも…まさか」
「…」
バンダナワドルディは視線をそらすと
「…体の方、だよ」
と答えた。
「!」
「…正気?」
「だから、まだ使う予定じゃないって…!!」
「まだ、ってところが…気になるんだけど」
「!!
だって、女の子って可愛いじゃない…なれたらいいなって、羨ましくて…」
ワドルドゥは思い出す。
そういえば、酔っ払ってぼやいてた時にそんなことを言ってたな。
酔った勢いで適当なことを言ってるのかと思ったが、…
…本音だったのか…
「聞いてもいい?」
「なに?」
「女の子になれたら、どうするつもりなの?
何かしたいことでもあるの?」
「え?
とくに、何かするわけじゃないけど」
「? じゃあそんな必要なくない?」
「見る目が変わるかなって」
「誰の?」
「…それは…」
「…大王さま?」
彼は首を振る
「…?」
「君…の」
「え 」
ワドルドゥは驚いて
「僕? …なんで?」
「君はボクのこと、ずっと可愛いとか、好きって言ってくれてるけど…たぶん、そういう意味じゃないだろうなって」
「は…?」
ワドルドゥは面食らうと、
「バンダナ君、自分が何を言ってるかわかってる?」
「わかってるよ!!」
バンダナワドルディは叫んだ。
「すごく気持ち悪くて、恥ずかしいこと言ってるって…そんなことぐらい…!!」
「…違う、そういうことじゃなくて…」
「そういうことじゃないか!!」
バンダナワドルディは喚くと
「なんかおかしいって…思ってた…。君が優しくしてくれて、大事に思ってくれて、それが嬉しいって思う自分が…。ずっと…。
でも、君は友だちって言い張る…きっとそんなふうには見てくれない。
だから、…
もし、君が恋人にしてくれるとしたら、女の子になるしかないのかなって…」
「…!」
ワドルドゥは愕然とする。
…じゃあ、つまり。
嫌な予感に従わずに放置していたら、彼はこの薬を飲んでたかもしれないってこと?
「…」
「あのさ? バンダナ君」
「?」
「こんな薬に副作用がないわけないだろ?
どこか体に異常が出たり、
うまく行っても後遺症が残ったりするかもしれないよね?」
「…!」
「そ、そんな…怖いこと言わないでよ!?」
「…そこまで考えてなかったってこと?」
「それは…!」
ワドルドゥはバンダナワドルディの手を取る。
「僕は、今のままの君が好きだから。
もし君が女の子になって目の前に現れたからって、同じように好きにはならないよ」
「!」
「そう…なの?」
「ああ」
頷く。
「…じゃあ、試してみてもいい?」
「え?」
バンダナワドルディは薬の瓶を開ける。そして、
「ボクが女の子になったら、君は本当に…興味なくしちゃうのかどうか…!」
そう言って、その薬を飲もうとした。
「!!」
パンッ
ワドルドゥはすかさずその手を弾く。
そして、バンダナワドルディの体を拘束した。
「あっ…!!?」
薬の瓶が転がり、中の液体がこぼれる。
「…!」
…薬が…
カーペットに染み込んでゆく。
「あ…あ…」
バンダナワドルディが涙を浮かべて震える。
ワドルドゥは彼を抱きしめたまま、
「…無駄にして、ごめん。本当に、この薬が必要ならちゃんと弁償させてもらうから…」
そう言って、
「…試すっていうのは、何のリスクもなく、やってみて違うって思ったらもとに戻れる場合を言うんだよ」
と、拘束を解いた。
「…わかっ…てるよ、そんなこと…」
バンダナワドルディの頬を涙が伝う。
「じゃあ、聞いてもいいかな?
君はボクに優しくしてくれるけど、そうやってボクを甘やかして、いったいどうしたいの?」
「!」
「楽しい? 弱虫なボクを女の子みたいに扱って…それが面白いの?? 君にとって…!」
「え?」
「どんなに君が可愛いって言って優しくしようとボクはやっぱり女の子じゃない。だからだよね? そんなふうには見れないから、結局はただの友だちだって言うんでしょ!?」
「…見れるよ」
「え?」
「バンダナ君。
君は泣き虫だけど弱虫じゃない。
すごく強い人だと思ってるよ」
「!」
「君は確かに女の子じゃない。でも、それに限りなく近くて、繊細で、壊れやすくて。だから大切に扱いたい。そんな存在に、僕には見えてるよ」
「…!!」
バンダナワドルディはそれを聞いて頬を染めると目をそらした。
が。
「じゃあ、どうして…?
怖いの? 恋人ってなれば…色々責任ができるから、友だちって言って、ごまかしてるの…??」
そう言って、涙を流した。
「!」
「そうだね、君の言う通りだよ。
僕は怖い。
余計な責任は負いたくないこともそうだけど、君を恋人にするとしたら、恐れてることがたくさんある。
だから前に進めない、臆病者だということは認めるよ」
「…そう…」
「でも…もし僕にその責任を求めてくれるなら、君にもしてほしいことがある」
「え?」
「君は僕にすごく優しい呪いをかけてくれた。でも、君自身にも厄介な呪いがかかってることに気づいてる?」
「…?」
「じゃあ、すこし意地悪なことを聞くよ。君にとって一番愛している人は誰?」
「えっ…!?」
「それが複数いたとしよう。もし、その人たちが死にかけている、という状況になって…そのうち一人しか助けられないとしたら、君は迷わずその一人を選べそう?」
「…!」
「僕は君と違って博愛主義じゃないから、恋人には自分だけを見てほしいと要求する。そこは何をしたって変えられないし、変えるつもりもない。
今までのように、君のあこがれの人の話なんか、穏やかに聞かないよ」
「…!!!」
「でも、僕は別にいいんだ。このまま君は君のままでいてくれて。僕は、友だちというなんの責任もない立場で君を好きでいるだけだから。それは今までもしてきたことだし、何も苦じゃないよ」
「…」
「その呪いをかけたのが、あの人なのか、君自身なのか、それは僕にはわからない。でも、君は、そのおかげで苦しんできたはすだ。現に、あの人はすでに他の人を選んだというのに、君は思いを断てずにいるだろ?
その呪いは、君自身が解かなくてはならないものだ。
もちろん、助けることはできるけれど…君が主体にならなければ意味がないんだ」
「呪いを…解く…」
…僕が自分で。
「それにね?」
ワドルドゥは意地悪く笑うと
「もしも君が望むなら、二人が別れるように邪魔してあげてもいいんだよ…?」
「えっ?」
バンダナワドルディは予想外の言葉に驚く。
「カービィは元旅人。本来は自由に生きたい性質なのに、大王さまや皆に合わせている状態だ。対して大王さまは、喧嘩には強いけれどすごく不器用で、君や僕らの支えがなければ生きていけない人。そんな二人の仲を引き裂くことは容易いと思わない…?」
「…!!」
「君がどうしてもあの人に振り向いてほしいなら、それくらいのことをしなくちゃいけないだろ?
でも、大丈夫。君自身は手を汚すことなく、彼の注意を自分に向ければいい。
そのために…僕は喜んで手助けするけど…?」
バンダナワドルディはそれを聞いて、ワドルドゥに掴みかかると、
「だめだよ! そんなこと絶対だめだよ!!
ボクは、二人のことが大好きだし、
幸せになってほしいんだよ!!!」
必死に訴える。が、
「…!」
そこまで言って、バンダナワドルディは口を噤んだ。
…大好き…? 二人を…?
バンダナワドルディは彼を掴んでいた手を離した。
…じゃあ? さっきの、…誰か一人だけしか助けられない状況に二人がいたら、ボクはどうするんだろう…?
「…ッ!!」
彼は頭を抱えてうずくまる。
決められない。
決めたくない。
選べない。
選びたくない…!!!
「…そう言うと思ったよ」
ワドルドゥは微笑む。
が、それは先程までな意地悪さはなく、いつもの彼の笑顔だった。
「でも、それって全然悪いことじゃないよね?
皆を助けなきゃって思うからこそ皆を救える場合もある。
そんな人だ、今の君は。
そんな君だからこそ、皆に愛されてた。
そうやって築いてきたものもあったはずだ。
大王さまとの関係、カービィとの関係。皆との関係…それが、今の君そのものだ。
それを変えろなんて、そんなに簡単なことじゃない。
そして、すごく傲慢だと思うから、僕は望まなかったんだよ」
「だから、君は自分がしたいと思うようにしてくれたらいい」
◆◆◆
「…あのね、ドゥ」
「何?」
「ボク、大王さまがカービィのこと好きで、僕らに内緒でお付き合いしてたって知って…本当は、嫉妬してしまってたんだ」
「…うん」
「ずっとそばで支えて来たのはボクなのに。尽くしてきたのに、愛してきたのに、って」
「…そう」
「…だから、君が、二人の仲を邪魔してくれるって言った時、心が揺らいでしまった…。そんな自分が怖くなったよ。
それでもやっぱり…そんなことは、したくない。
だけど、そう言ってくれて、すごく嬉しかった…」
「…それはよかった」
「だから、
二人が二人の幸せを選ぶなら…それを邪魔するんじゃなくて、ボクも幸せを選びたい。そう思うんだ」
「そうだね。それがいいと思うよ」
ワドルドゥは頷いた。
そして…いい子だね、というように頭を撫でる。
バンダナワドルディはワドルドゥの手を握って
「そのためにも、ボクにかかってる呪いを、解きたい。…手伝ってくれる…?」
「もちろんだよ」
バンダナワドルディは彼に寄りかかると
「その時は、…」
…いや、…。
言いかけた言葉を彼は飲み込むと、
「…ううん、今やれることをやらないとね」
そう言って、目を閉じた。
「時間、かかるかも…しれないけど」
「それが君にとって必要なことなら、僕はいくらでも付き合うよ」
「…」
…ありがとう。
どこまで行っても、彼は親友だった。
感情任せで一線を越えた先には様々な不幸があったかもしれない。自分はそれでもかまわなかったが…彼はそれを許さなかった。
こうして抱きしめ合っていると、不安も焦りもほろほろと解けてゆく。
二人でいればきっと大丈夫だろう。
そんな気がしていた。
…僕は、やっぱりこの人のことが好きだ。
そばにいたい。いてほしい。
それが自身にかかった呪いを解くために、彼の踏み出した一歩だった。
(ここまで)