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【ドゥディ】あの日の僕にさよならを

「幸福な呪い」その後のお話。
カービィからもらった「しかくい石」を、あれからずっとお守りにしていたワドルドゥと、それを叩き割ってしまうバンダナワドルディのお話。
どちらかのお部屋で二人きりになっても何も起きない二人ですが、今回は少し進展がある…かも。
切なくて幸せな話にしたかった…です。 
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【ドゥディ】あの日の僕にさよならを




「今夜は、僕の部屋で…?」

「そう! 今まで呼んでくれたことなかったでしょ?」

「確かに…」
ワドルドゥは頷く。

二人がずっと続けている寝る前のお茶とおしゃべりは、位置的にも給湯室に近いこともあって、バンダナワドルディの部屋で行っていた。

しかし、お互い親しくしている仲でありながら、ワドルドゥがバンダナワドルディを自分の部屋に呼ぶことは今までなかったのだ。

「何もない部屋だよ。それに奥にあるから行くのも帰るのも面倒かなって」

「全然ないよそんなこと!」
バンダナワドルディはそう言って、

「ずっと気になってたんだけど、もしかしたら、来てほしくないのかも…って思ったら聞けなくて…」
しょんぼりと眉をハの字に下げた。

ワドルドゥはそれを聞いて、

「まさか。全然そういうわけじゃないよ。…ただ、あんまり自分の部屋に人を呼んだりしなかったものだから」
ワドルドゥはバンダナワドルディとは違い、あまり自分のパーソナルスペースに人を入れるのに慣れていなかった、…ということなのだろう。

「そうだったの?」
バンダナワドルディはキョトンとしていたが、

「じゃ、ボク、遊びに行ってもいいのかな?」
と目を輝かせた。

「えっ。も、もちろん」
ワドルドゥは頷いた。ちょっと緊張している様子だが。


「わーい。お呼ばれ第一号になっちゃおー!」

バンダナワドルディはそう言うと、パタパタと走って行ってしまった。

それを見て、ワドルドゥは

…可愛いなー…

と微笑ましく思う。

そして、

「でも、そんなに嬉しいものなのかな…?」
と首を傾げた。


◆◆◆

「…なんか男の子の部屋って感じだね…!」

シンプルな黒と青が基調の部屋。
そして机と本棚と、ゲームの棚を見て、バンダナワドルディは感激している。

「君だって男の子じゃないか」
何言ってるんだとばかりにワドルドゥはそう返す。

というより、バンダナワドルディの部屋にはミシンや料理の本や雑誌、ぬいぐるみなどがあって、いわゆる女子力…いや、嫁力の高い部屋だった。
それに比べたら彼はかなり一般的な男の子の部屋になるのだが…


「これドゥラゴンクエストⅤでしょ? すごい流行ってたよね。なつかしー」

「うん。ゲームシステムも面白いし、ストーリーも良かったよ」

「ちょっとやってみてもいい?」

「え? それはかまわないけど、時間のかかるゲームだよ? 星のカービィとかすぐ終わる可愛いゲームもあるけど…」

「いいのいいの!」
バンダナワドルディは、開けていい? とことわって、ドゥラゴンクエストのソフトの箱を開けた。

「ボクん家ゲームとか欲しいって言えなくて…遊んだことなくてさ。持ってる子がすっごく羨ましかったんだ!」

はっ!!

ワドルドゥは思い出した。

…そうだ! 3つ目のデータに、お姫様の名前にバンダナ君の名前つけたやつがあったんだ!!


彼は戦慄した。

そのデータは、ちょっとした出来心で始めたものの…やはり良心がとがめたのでチュートリアル以降のストーリーを進めてはいないのだが…並んだ名前を眺めるだけでもちょっとした幸せを感じられるものだったので、データ自体は消さずに残してあったのだ。

「ば、バンダナ君? じゃあ今度お休みとってゆっくりやろうよ?? 」
 
珍しく、わかりやすく動揺しているワドルドゥを、

「んー…?」 

バンダナワドルディは怪しんだ。

「何をそんなに慌ててるの?」

「い、いやそれは…ね?」

「あやしい! さては恥ずかしいデータでも作ってるんでしょ!」

へ…!??

読心術!? 

「主人公の名前に下ネタとかつけて、ふざけたりとか…!」

ワドルドゥはほっとした。

「やるんだよね〜男の子って。あんなの何が楽しんだろって思うけど…」

なんだか女子みたいなことを言っている。

…さすがに自分の名前をつけられてるとは思わないか。

「ええと、その…」

彼の予想通り恥ずかしいデータであることは間違いない。そして、お姫様に自分の名前がついててドン引きするバンダナ君の未来が見える。

「…くっ…!」
しかし、これも運命かもしれない。
ドン引きして蔑んだ目線を自分に向けるバンダナ君もまた、おいしいに違いない。そう思い直し、ワドルドゥが覚悟を決めたその時だった。

バキッ

嫌な音がした。

「あれ…?」

「えっ?」

なんと、バンダナワドルディはスーファミのソフトを差し込もうとして、勢い余ってカセットを壊してしまったのだ。

「うわ…うわわわ…!!!?」

◆◆◆

「ご、ごめんなさい!!! 普通に差し込んだつもりだったのに…力加減できなかったみたいで…!!!」
バンダナワドルディは泣きながら頭を縦にブンブン振った。
「いや、全然いいよ。まったく問題ないから」
ワドルドゥは頷いた。

「そんなわけないでしょ!? 時間がかかるゲームなんだよね? それを全部クリアしたデータがあったんでしょ!!?」

「だいぶ昔の話だし…やりたければまた買ってやればいいから。ソフトは中古で安く売ってるんだよ」

…何より、バンダナ姫のデータを見られなくて本当によかった。
ワドルドゥはホッと胸をなでおろした。

「それより、指(?)、怪我してない?」

「あ…」
バンダナワドルディは自分の手を見ると、カセットの破片が刺さって血が滲んでいた。

ワドルドゥは救急箱を持ってくると、バンダナワドルディのを手を取って、
刺さった破片をとって、絆創膏を貼った。

「…ありがとう…」

バンダナワドルディは、恥ずかしさと申し訳無さで顔を赤くして俯いた。

とりあえず彼は、壊したソフトを弁償しようと決意した。

◆◆◆

そんなことがあったものの、バンダナワドルディはワドルドゥの部屋のベッドに腰掛けて彼を待っていた。

部屋に台所があるわけではないので、料理はお城のキッチン、お茶は給湯室で入れて持ってくる。

「おまたせ」

ベッドの横のミニテーブルにティーセットを置いて、ワドルドゥは自分の机の椅子をこちら側に向けて座った。

「今日はカモミールにした」

「いいね!」
そんな気分だとバンダナワドルディも頷いて、お茶を飲む。

「いただきます」

…うーん、この大ざっぱさが彼らしいというか。
だけど、そこがいいんだよなぁ。

そんなことを思いながら。

「君が淹れた方がずっと上手だと思うよ」
ワドルドゥは笑って言った。

「!!?」
バンダナワドルディはお茶を吹き出しそうになった。

「君のほうが繊細な香りがするし、味わいも深くて。…なかなかそんなふうには淹れられないよ」
 
そう言いながら、自分の分のカップをとる。

「そんなことないよ。これが君の味だって…、ボクはけっこう好きなんだからね…!」 


お茶の味そのものよりも、二人で一日を振り返るこの時間が、バンダナワドルディにとって幸せな一時だった。

「そう。嬉しいよ」
ワドルドゥはお茶を飲んだ。

寝る前に飲むお茶なので、カフェインなどが入っていなくて、リラックスできるものを選ぶのが基本だ。
ワドルドゥはバンダナワドルディとの時間ために、茶葉を選ぶのが一つの楽しみとなっていた。

何をしたってバンダナワドルディのほうが上手だとわかっていても、これは自分がやろうと決めているのだ。

「…ごちそうさま!」
バンダナワドルディは、カップを置いた。



◆◆◆

「ドゥ、これは何?」

いつもと一味違うお茶の時間を終えて、自分の部屋へ帰ろうというところだった。

バンダナワドルディは彼の机の片隅に置いてある石が目に入り、たずねる。


「ああ、これは…」

ワドルドゥは説明した。


◆◆◆



「カービィが、これを君に?」

ワドルドゥは、うん、と頷くと

「君のそばにいる『しかく』。
僕が、欲しいっていったらくれたんだ。
グーイと一緒に宝探しをしていて。

角の取れた、まあるい、しかく。うまいこと言うよね」
そう言って笑った。

「それが、ボクの…そばにいる、資格…だって?」


「そう」

ワドルドゥはその石を手に取ると、大事そうに撫でた。

「それからずっとお守りにしてるんだよ」

…ずっと君のそばにいられるように。

彼はそう思い、目を閉じた。




「…そう、なんだ」

バンダナワドルディは、表情を曇らせて、

「ボクには話してくれなかったのに、カービィとかには話してたんだね…」

と、呟いた。

…やっぱり、君が悩んでる時は…僕は置いてきぼりなんだな…

親友。そう思っているのに。

そのことが、彼は寂しかったのだ。

ワドルドゥはバンダナワドルディをじっと見て、

「話せなくて、ごめんね。
あの時の僕は、本当の気持ちを君に伝えるのが怖かったんだ」

「…」

「でも今は違うよ。 君がそばにいていいって言ってくれたから。君のこと、好きって言ってもいいんだって思えるから…」

すごく幸せだよ、と。彼は頷いた。



「…そう」


確かに、そうだった。
毎朝今日も可愛いねと褒めてくれたり、この前なんて疲れが溜まって倒れた時にはひざまくらをしてほしいと言ってみたり、…それに対して、それは女の子にすることだとすかさずツッコミを入れ、本気で怒るのも、また楽しくて。それに…実のところはまんざらでもないのだから、困ったものだ。

そして何より、彼が幸せそうだということが、バンダナワドルディは一番嬉しかった。


なのに。

…そばにいて『いい』って…『許可』したんじゃなくて、そばに『いて』って。僕は『お願い』したんだよ…?


その石を大事にする姿を見ていると、
なんだか彼がそのままどこかへ行ってしまうような気がしてしまったのだ。





「それ、貸して」

「え?」

ワドルドゥはきょとんとしながら

「いいけど…ふつうの石だよ?」
そう言って、はい、と石を手渡す。

そして。

エイヤッ!! と、
バンダナワドルディは、その石を叩き割ってしまったのだ。

「えっ…?」


◆◆◆


ワドルドゥにはその瞬間がスローモーションのように見えていた。


…え? やめて…



そう、止めようと手を伸ばしても、追いつかない。


その石は、無惨に砕け散った。

破片が散らばる。
ワドルドゥはその場に跪くと、


「え? な、なんで…?」

そう手をのばしてもそのかけらが元の形に戻ることはない。
彼はそれらを呆然と見つめた。

ガタガタと手が震える。

視界が、歪む。

声がうまく出せない。

「……」

ワドルドゥが何も言葉を発せずにいると、

バンダナワドルディが言う。

「もう要らないでしょ、こんな石ころ」

「え…?」

「だって、ボク『本人が』そばにいてって頼んだんだよ? 君は、堂々とボクのそばにいてくれたらいいんだよ。そうでしょ…?」


◆◆◆



「…!」
ワドルドゥは、てっきり自分にとっての「君のそばにいる資格」を、壊されたのだと思ってしまっていた。
もう、自分に関わらないでくれ、と。
そう言われたのだと思ったのだ。

それが違うとわかり、…まったく反対の意味だと知って。

「…」
ワドルドゥは黙って下を向いていた。


「ドゥ?」



「…ありがとう、バンダナ君」

彼はそう言って、ふらりと立ち上がり

「!!」
バンダナワドルディを抱きしめた。

「えっ…え、あの??…」
バンダナワドルディは目を白黒させる。
自分の方からはあっても、こんなふうに彼が抱きついてきたのは初めてだった。

顔が真っ赤になる。
でも顔はお互い見えないので、見られなくてよかった、と思う彼だった。

「…君がそんなふうに、この石を壊してくれることに、どんな意味があるのか。どんな君の優しさがあるのか。どんなにありがたいことか。僕は、わかってる。…そのつもりだよ」
ワドルドゥは彼を抱きしめたままそう言うと、


「…でも、次からは壊す前に一言言って?
ダメなんて言わないから…
こんなものでも、大切にしてきたものなんだ…」

そう、震える声で続けた。

「!!」
バンダナワドルディは青ざめる。
彼の目から涙が流れて、自分の肌に滲むのがわかったからだ。


…どうしよう、なんてことをしてしまったんだろう…!!

やってしまった、と思ったが、時すでに遅し。
最近の二人は、やや漫才のようなテンポの良いやりとりが続いていて…
今回のことも、そのノリでやってしまったところがあったのだが…

それに加えて、自分が彼に「これからもそばにいて」という「呪い」をかけたのに、他の人の言葉にも縛られているのだとしたら、それは今すぐ解くべきだ、と。
それが、自分のするべきことだと思い込んでしまったのだった。

思い込んだら一直線。それが彼の良いところでもあったが…時にはそれが仇になることもある。


「…っ」

彼も言葉を見つけられずにいると、
ワドルドゥは話し始める。


「君が、そばにいていいと言ってくれるまで、僕は不安だった。

僕は君のことが好きで。好きで、大好きで…愛しくてしかたがない。でも、
そんな自分を正しいと思えたことはなかったんだ」

「…!」

「誰かのくれた石だって なんの責任もない無邪気な言葉だって…、それまでの僕を肯定してくれて。

だから、たとえそれが…君との関係の終わりに繋がるとしても、伝えることができたんだよ」






「ご、ごめん…。君が、そんなに悩んでたことも

思い詰めてたことも、知らないで… 」

バンダナワドルディはワドルドゥの体を抱きしめて、涙を浮かべると

「ごめん、ごめんね…」
と何度も謝った。


「…ううん、いいんだ。僕が知られないようにしてたわけだから、君は何も悪くないよ」

「…ッ」
バンダナワドルディは嗚咽をこぼす。

「いつか手放すことになるとは思ってたから。
まだ、さよならする準備ができてなかっただけで。
だから、これからすればいいってだけなんだ…」

「ごめん、本当にごめん…!!」

「謝らなくていいってば…」




そうやってしばらく抱き合っていた二人だった。


◆◆◆
バンダナワドルディは自分の行いを後悔していたが、ワドルドゥの方はもう気にしてはいなかった。
バンダナワドルディは、それがなんとなく…自分を抱きしめた腕と、頭を撫でる手の温かさで伝わり、安心してきたところだった。

…本当にごめん…。

彼は、心の中でもう一度謝ると。

はー…あったかい。
こんなふうに素直に甘えてくれたら、ハグでも何でもしてあげるのになぁ…

と顔をほころばせた。

が、そんな時だった。

「すーはーすー…はー…」

「ん゛??」

頭の方から深呼吸らしき音が聴こえるが…

「はー…い~匂い。癒やされるー…」

「へ…?」
バンダナワドルディの顔がひきつった。

「よし、バンダナ君チャージ完了!」
ワドルドゥはそういって彼から離れ、


「最高に幸せであります!」
ビシッと敬礼した。

「ちょ…!?」
バンダナワドルディは真っ赤になると、

「ちょっと! なんだよそれ!! 本気で心配したんだよ!?
それにそんな喋り方してないでしょ!? アニメの隊長とシンクロしないで!!」
そう叫んだ。



ワドルドゥは時計を見た。

「…さあ、もうこんな時間だし、寝よっか」

バンダナワドルディも時計を見て

「う、うん。そうだね…!」
頷く。

…そんなに長いこと抱き合ってたのか…

改めて顔が赤くなる。

「え、何?」

「なんでもない!なんでもないよ!!」

「??」




◆◆◆
ワドルドゥの部屋の扉を閉じながら、
「…大丈夫?」
とバンダナワドルディは心配して聞いた。
あれからずっと、彼の涙が思い起こされていたからだ。
めったに泣くところなんか見せない彼だった。
大切にしていたものを壊されて、よほどショックだったのだと、バンダナワドルディは彼の気持ちを思い量っていた。

「うん」
ワドルドゥは頷いて、

「なんともないよ」
と、いつものように笑った。

「…」
バンダナワドルディは閉じかけた扉をもう一度開けると、

「!」

その頬にキスをした。

「え?」
ワドルドゥは目を丸くする。




「じゃ、じゃあ、おやすみ! また明日ね!?」

バンダナワドルディは走って自分の部屋へ戻っていった。

「…?」
ワドルドゥは、自分のされたことの意味がわからずしばらく固まっていたが…我に返って、

頬を染めると、扉を閉めた。


バンダナワドルディは慌ただしくドアを締めて、その場にへたり込む。

…何してんだろ、僕…

真っ赤になったままため息をつく。

…僕を抱きしめて、何度も好きだと言ってくれた。

バンダナワドルディも、自分が正しいと思うことを信じてやってきただけで…自分そのものに自信があったわけではなかった。
愛情だと思ってばらまいていたものは、「重い」とか、「度を越してる」と敬遠されることも多く、虚しかった。そんな自分を嫌いになることも多かった。

でも彼はそうやって落ち込む自分を、いつも…大丈夫だよって勇気づけてくれて。

最近はふざけたやりとりも多かったから、忘れかけていたけれど、彼の愛情は、きっと…これでいいのか悩みながらも大切に抱きしめながら、ずっと自分に向け続けてくれていたものだった。

どんな言葉よりも、彼に届くように。
自分も大好きだと伝えたかった。




一方、ワドルドゥの部屋。

彼の部屋の床には、バンダナワドルディが破壊した大切なお守りの残骸が転がっていた。

その破片を拾って、静かに見つめている彼の姿があった。

「…」

あの頃の僕は、

君に恋焦がれて、追いかけて。

でもそれを知られないようにと…ただそばで友だちを演じ続けていた。

誰にも肯定されることのない思い。

せめて、役に立てていますようにと祈り。

そうしながら、ずっと暗闇の中を歩いていた。

君という光だけを求めて。


波間に転がる名前もないその石は、まるでそんな自分自身のようだった。


「…今までありがとうね」

役目を終えたお守りの欠片に、涙の雫がぽつり、ぽつりと降った。




(ここまで)

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