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瞳の奥にいる君のこと

とある世界線の二次創作におけるプププランドのデデデ城にいるワドルドゥ隊長について。
アニメ星のカービィに出てくる可愛らしい隊長とは違い、落ち着いた雰囲気の若者といったところだろうか。

彼にはちょっとした悩みがあり、

…今日もバンダナ君が可愛い…!

それはデデデ大王の側近である、バンダナ君、ことバンダナワドルディに対して、恋心…いや、やや重い友情を持っていることだった。

とはいってもバンダナワドルディ本人“以外の”城の面子は既に知っていることでもあるが。

隊長は他人に対して淡々と接するタイプなのだが、バンダナワドルディにはとても対応が…なんというか、優しい。
もちろん怒るようなこともないし、ツッコミの代わりに波動ビームを撃つなどもってのほかである。
ポピー曰く、「(バンダナワドルディが)女子に見える呪いにかかっている」とのことで全員が納得しているのだが、ややこしいことにあくまで本人は「友情」だと、そう言い張っている。
確かに、バンダナワドルディは仕事の他に料理や裁縫も出来る女子力の高い人物だ。しかし、それはそれであり、彼本人を女子として見ているわけではないという。
かといって恋愛対象が男性なのかというとそういうわけでもなく、彼はただ、バンダナワドルディという人物が好きなのである。
人の感情とはなかなか厄介なものだった。


◆◆◆

すべての始まりは、デデデ城から一番近くにある商店街。
彼が図書館から本を大量に抱えての帰り道、それが一冊落ちてしまった。
それに気づかずに歩いていると、後ろから声がした。

「落としましたよ」

その人物がバンダナワドルディだったのだが、

「この本、ボクも好きなんです。素敵なお話ですよね…!」
と彼は微笑んだ。

デデデ城にいるバンダナワドルディといえばプププランドの住民はだいたい知っているが、彼が本人に会ったのは初めてだった。

そしてその笑顔に心惹かれたワドルドゥ青年は、すぐにデデデ城に就職(?)を志願してしまったのである。
1つ目だけに、一目惚れ…いや、1つ目惚れというわけである。

「…波動ビーム撃つけどいい?」

◆◆◆

デデデ大王との面接(?)にて、バンダナワドルディが席を外した際に彼は、その理由を正直に打ち明けた。

「あいつに?」
 
大王は目を丸くする。

「知り合いなのか? 初対面に見えたが」

「いえ、まったくの他人です。たぶん、一度会ったことを彼も覚えてません」

「じゃあ、何故…」

「彼は…とても親切で、ひと目で好きになりした。一緒に働きたいと思ったんです。」

それを聞いて大王はぽかんとしていた。

が、我に変えると、

ふふ、ふ…と笑い出す。

正直な気持ちではあったが、好き、なんてあまりに直球に言い過ぎたかもしれない。すこし彼は恥ずかしくなってきた。

が、大王は別の意味で笑っていた。


「…そうだろう?」

「え?」

「あいつはオレさまの自慢の部下なんだ。いいやつだろ? あんなワドルディ、なかなかいるもんじゃない。お前がそう思うのも無理もないな。当然だ…」

彼は半ば独り言のようなことを言って、うんうん、と頷いている。
デデデ大王は、普段部下をこきつかっておきながらめったに褒めたりなどしないのだが…その部下が褒められると自分も嬉しいという…所謂ツンデレな一面を持っていた。
それで、ワドルドゥ青年の言葉をたいそう喜んだのである。

「あいつは優秀だが、仕事が多すぎるんだ。誰かに分担できたらと思ってところだった。お前がその役目を担ってくれるなら、心強いがな」

そういうわけで、デデデ大王は彼をワドルディたちのお世話役として任命したのだった。

◆◆◆
さて、意中の人であるバンダナワドルディは、喜んで彼を迎えてくれた。
もともと同じ一頭身の仲間はワドルディ隊の子たちと、一年中寝ているノディたちで…ほとんど彼にとっては幼い子供と話しているような感覚だった。
二人は年もそう離れていないのと、本や静かに時間を過ごすのが好きだったりと…感性が近かったこともあって、すぐに意気投合することになった。

そしてバンダナワドルディは、てきぱきと、今の仕事を引き継いでくれたのだった。

◆◆◆
「ドゥ隊長はすごいね! あっという間にやること覚えちゃって…」

隊長とは、特に役職ではないのだが…なぜか彼らにそう呼ばれるようになってしまった。ワドルディ隊にとってはその方が呼びやすく、彼を頼りやすいのだろうということで。

「君の教え方がわかりやすかったからだよ」
とバンダナワドルディにお礼を言う。

彼の教え方もそうだし、好きな人を支えられるのならと、必死に覚えたし……とにかく引き継ぎはうまいことできたのだった。

「わにゃ語は難しいかもしれないけど…表情を見てればなんとなくわかってくるから、焦らなくて大丈夫だよ」
バンダナワドルディはそう言うと、

「わからなかったらボクにも聞いてね」
と微笑んだ。

その笑顔に、

「…!」

…やっぱり可愛い…!!

ほわほわと目の前にお花畑が広がるワドルドゥ隊長だった。

「?」

もちろん毎日でも聞きに行きたい気分だが、それは彼にとって迷惑になるだろう。

「ありがとうバンダナ君。これからもよろしくね」

彼らは無事、引き継ぎ最後の日を終えた。

◆◆◆
お互いの持ち場と仕事範囲が決まってくれば、
もちろん会える時間は少なくなるが、
バンダナワドルディの部屋は彼と同じ階にあって、朝の時間が合えば挨拶を交わせる。彼はそれだけでも充分だった。


ワドルディ隊の子たちはとても素直に訓練や教養に打ち込む良い子たちだった。
とくに苦労させられることもなく、ただ見守って、できたことを褒めたり、勇気づけたりしていればどんどん色んなことを覚えていった。 
彼は一人ひとりの微妙な個性を見つけては、判別ができるように手帳につけていった。

◆◆◆

ワドルドゥ隊長が彼らとの仕事に慣れてきたある日、彼は少し元気のなさそうなバンダナワドルディに会った。

「おはよう、バンダナ君」

「あ!…おはよう」

「なんだか疲れてない? ちゃんと休んでる?」
彼がたずねると、

「だ、大丈夫。ちゃんと寝てるよ…!」
バンダナワドルディは笑うが、少し笑顔がぎこちない。

「そう?」
ワドルドゥ隊長は首を傾げ、バンダナワドルディも何か話したそうにしていたが、時計を見て、

「いけない、もう行かなきゃ!」
デデデ大王への朝の挨拶の時間だった。

「じゃあ、…ワドルディ隊の皆のこと、よかったらまた聞かせてね!」
バンダナワドルディはそう言って、パタパタと階段を上がっていった。

◆◆◆

「お前この城になじんできたね。楽しくやってそうじゃん!」

仕事仲間であるポピーブラザーズSr.は、この城の爆弾職人だ。各地に縄張りを持っている他の中ボスたちのリーダーもしている。
弟と一緒にお城に住んでいて、皆は兄の彼を「ポピー」、弟は「(ポピー)ジュニア」と呼んでいる。
もともと不良だったそうで、口が悪くちょっと言動が軽くてふざけていたりするが、根はそれほど悪いやつではない。
もともと、隊長が来る前はバンダナワドルディの留守中はワドルディ隊の世話もするなど、本人曰く「縁の下のポピーおにいさま」ということだった。
ワドルドゥは彼とも割とすぐ打ち解けていた。


「ねえポピー。
最近バンダナ君が悩んでるみたいなんだけど何か心当たりある?」

ポピーはそれを聞いて考えると、

「…めちゃくちゃあるな」
と真剣な顔で答えた。

「…大王さま、めんどくさいからな。わがままだし、自分勝手だし、何でも上から言うし、自己顕示欲高いし、すぐ拗ねるし…」

結構な言いようだ。まあ、事実なので仕方がないが。

「俺らみたいにテキトーに相手してれば問題ないけど、あいつ真面目だし、繊細だから、一言一言に傷ついたり疲れたりするんじゃねーの」

「なるほど…」

もともとはデデデの側近以外にワドルディ隊の世話もしていたバンダナワドルディ。
デデデ大王のそばにいる時間が長くなれば、そういう悩みが増えるのだろう。

「だから側近はオレにしとけって言ったのに…。まあ、本人がやりたいって言うし、お邪魔はできませんからね?」

ポピーの方が年上でデデデ大王の扱いも心得ているのだが、付き合いが長いのはバンダナワドルディの方なのだ。それで、彼は一歩引いて見ているということだろう。

ワドルドゥはポピーに礼を言うと、自分の持ち場に戻った。

◆◆◆

「バンダナ君、起きてる?」

「? どうしたの」
ドアを開ける。

「よかったらお茶しない? 」

「え?」

「最近ちょっと元気がなさそうだったから」


◆◆◆

寝る前のお茶なので、カモミールやラベンダーなどのハーブティーや、カフェインを抑えた紅茶が基本だ。

「はーっ… なんかほっとするね」
お茶を飲んで、バンダナワドルディがそう言う。

「よかった」

その夜は、ワドルドゥの方から、今のワドルディ隊のことをはじめとした今日の出来事を話した。
バンダナワドルディは、今はなかなかゆっくり会えない教え子たちのことを知れて喜んだ。

また明日もしようと約束してティーセットを片付けると、ワドルドゥは幸せな気持ちで部屋に戻った。

…やったー!
バンダナ君と話せる時間ができたぞ…!!

彼はスキップ&ターンを決めてから、自分のベッドにダイブする。
そして一度全部布団を被ってから、もぞもぞと頭を出した。

…こんな感じでよかったのかな。
少しでも元気出してくれたらいいけど…

そう呟くと、彼は瞼を閉じた。

◆◆◆

そんな感じで、寝る前のお茶とおしゃべりは彼らの日課になり。
少しずつ、バンダナワドルディも自分の一日…デデデ大王とのことを話すようになっていた。

話しているうちに、バンダナワドルディの泣き虫な一面、熱血な一面など様々な部分を知るのだが、
どんな彼もワドルドゥにとってはやっぱり好きであることは変わらず…そしてとても可愛いのだった。

唯一、ちょっとお節介な部分については、今後彼を悩ませることになるのだが。

◆◆◆

しかし、バンダナワドルディのことをますます好きになっていく一方で、
彼自身はそんな自分を知られるのが怖かった。

もし、こんなふうに思ってることを知られたら、

…気持ち悪いかもしれない。
…怖いかもしれない。

それでなるべく表には出さないよう心がけていた。

あくまで、友だちとして。
好きだとか、可愛いとか、おかしなことを口走らないよう気をつけていたのだ。

それに。
彼をいい子だと思えば思うほど、その優しさに、自分の行為が負担をかけていないかということは心配だった。

たとえば、自分に会うといつも嬉しそうにしてくれるが、それが自分を喜ばせるためや気を遣って…ではないか、とか。

大丈夫だろうか。本当に。

どんなに慎重に彼の様子を見ても、話を聞いていても、彼は不安だった。

◆◆◆

「そんな話オレにされてもなー」
ポピーが言う。

「このまま彼を好きでいていいと思う…?」

「わかんねーよそんなの!!

だいたい、だめだって言われたらお前あいつを嫌いになれるわけ?」

ワドルドゥは机に突っ伏しながら首を振った。

「じゃ、もうそのままでいろよ…」
ポピーは彼の頭を撫でてやると、

「本人が嫌がってないんならいいんじゃね?」
そう言った。

◆◆◆

「バンダナ君、ごめん今日は先に寝るね」

「お茶会しないの?」

「今日はなんだか疲れちゃって。…お話しても、うとうとしちゃいそうだから…」

「いいよ、うとうとしても!」
バンダナワドルディは嬉しそうに言った。

「じゃあ今日はボクが淹れるから、先に入っててよ!」

「…え?」

◆◆◆

「いつもお茶淹れてくれてありがとうね」


「ボク、この時間がとっても楽しみで。何話そうかなって思いながら過ごしてるんだ…」

「…!」


「そ、そうなの?」

「うん!」

そう言いながらカップにお茶を注ぐ。

「今日はラベンダーにしたよ!」

「…!」
…まさか、楽しみにしててくれたなんて…!
ワドルドゥの脳内にお花畑が広がる。
ついでにちょうちょもひらひらと舞っている。

「そうだ、疲れてるなら横になる?」
とベッドを指す。

…バンダナ君のベッドで横になる!?
彼にとってはとんでもない提案に、思わず背筋が伸びる。

「だ、だだ大丈夫! そのまま眠っちゃったら悪いし!!」

「…?」
バンダナワドルディはその慌てようを見て怪訝そうな顔をしたが、すぐ笑顔に戻って、

「ドゥ隊長は優しいよね。ワドルディ隊にも人気だし、ボクのことも気づかってくれて…」

「…優しくないよ、全然」
ワドルドゥは苦笑いをする。
優しくしてるのはあくまで目の前の好きな人だけなのである。

「ワドルディ隊の子たちはもともと素直で人懐こいし、今でも君のことをバンダナ先輩って慕ってるよ」
彼は微笑んだ。

「そうかあ…嬉しいな」
バンダナワドルディも喜ぶ。
 
「大王さまも、ポピーもあんな感じだし、君が来てくれてどんなに嬉しいか…!」

デデデ大王は彼をこきつかっては文句を言ったり怒鳴ったりと苦労をさせているし、ポピーと彼は大王への忠誠心の違いでよく言い争っている。バンダナワドルディは彼が苦手だったのだ。

「大王さまは、面接した時に君のことを『自慢の部下』だって言ってたよ」

「えっ…?」
バンダナワドルディは驚いて

「なんでそんな話になったの?」

「!!」

…しまった! 大王さまに言ったことがバレるじゃないか!!

ワドルドゥは即座に話題を変えることを決めた。

「それに、ポピーも…あんな感じだけど君のこと心配してるみたいだよ」

「…そうなの?」

予想外の一言だったらしく、バンダナワドルディは眉を寄せた。

「そんな様子想像つかないけどなぁ」

…よし。助かった。

ワドルドゥはバンダナワドルディが淹れたお茶を飲んだ。

「…!」

…おいしい…!

自分の(おおざっぱな)淹れ方と違って、繊細で香りも深い。

「上手だね…?」

思わずそう言ってしまうと、
バンダナワドルディはきょとんとしていたが、

「毎日大王さまに淹れてるからね」
と頬を染めた。

「そっか…」

なるほど、あのデデデ大王だ。注文が多そうだ。

「苦労してるんだね?」
ワドルドゥが感心して言うと、

「そんな!」
バンダナワドルディは首を振って、

「ボクはそれくらいしかできないから。喜んでもらいたいし…」
そう言って笑った。

この時点では戦う力を何も持っていなかった彼は、雑用やお世話、話し相手として一生懸命デデデ大王に仕えていたのだ。
後に、かちわりメガトンパンチに出場したり、果てには槍術を覚えてデデデやカービィ…メタナイトに並ぶ実力の戦士になるなんて、この時点では想像もできないだろう。


「じゃあおやすみ。また明日ね」

「うん、おやすみバンダナ君」

扉を閉じる。


言葉にできないほどの幸せな気持ちがワドルドゥを、包んでいた。

…何ていい子なんだろうな

真面目で、親切で、仕事熱心で。

…全然、釣り合わないんだけど…

やる気はほどほど。
親切なのは、好きな人にだけ。
仕事は、けっこうおおざっぱ。

まるでその下位互換のように思える自分とは、とても。

…いいのかな。自分なんかが、友だちで。

「…」

『本人が嫌がらなきゃいいんじゃね?』 
ポピーの言葉を思い出す。


「…そうだと、いいな…」

ワドルドゥは呟くと、自分の部屋へ戻った。


「…」
バンダナワドルディは扉を少し開けて、
彼の背中を見送っていた。




(次のお話)
[[jumpuri:「ミッション:はるかぜとともに」 > https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=20619370]]

一度一人称視点で書いてアップしたものを打ち直したら、ギャグになってしまったという不思議です。すごく真面目に描いたつもりだったのに…第三者目線になると、何事も喜劇になってしまうものなのでしょうか…?

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