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『他の誰よりも君のことが大切だ』

とか

『君が笑ってくれるなら、どんなことでもできる』

とか

『僕の一生を君に捧げます』
とか。


次から次に浮かぶ言葉は、
もし伝えたらきっと君を困らせるものばかりで。

けれどそのどれもが、
いつだって僕の生きていく原動力だった。


僕は…


ここにいていいのだろうか



全部


全部、この波がもっていってくれないかな




「あれ?」

聞き覚えのある声をかけられて振り向いた先にいたのは、

カービィだった。


「こんにちは。君、デデデのお城で働いてるワドルドゥだよね?」


僕は頷く。


「でも、よくわかったね?」

確かにお城にはよく遊びにきているのを見かけたけれど、直接話したことは、ほとんどなかったはずだ。

「なんかね、今まで会ったワドルドゥとは雰囲気が違うな、って、覚えてたの」

「そうなんだ」

「今日は、お休み?」

「うん。ちょっと散歩をね」

「散歩…?」

カービィは少し言葉に迷ったようだったが、

「そういうふうには見えなかったけど…」
と顔を覗き込んだ。

「え?」


「ううん、違うならよかった」


「カービィは、どうしてここへ?」

「遊びに! グーイとね」

カービィがグーイを呼ぶと、向こうできれいな貝殻をあつめていたグーイがやってきた。

「こんなに見つけました」

長い舌で、器用にたくさんの貝殻を抱えている。
得意そうだ。

「わあ、すごいね! たからものがいっぱいだ…!」
カービィが楽しそうに笑う。

そして、これはこうだとか、これはあれだとか言いながら、分類しはじめた。
そうしながら、カービィが話しかけてきた。

「ワドルディから聞いてるよ。君はいつも、彼が困ったときにそばにいてくれるんだって」

「えっ?」

カービィがワドルディと言う時は、バンダナ君のことを指す。それは彼自身が、カービィはずっと自分のことをワドルディと呼んでくれているのだということを嬉しそうに話していたからだ。
それはもちろん、身につけているもので呼ばれるよりも、本当の名前を呼ばれた方が嬉しいはずだ。
とはいえ、僕らがそうすると、誰が誰だが分からなくなってしまう。…だから、これは城の者ではない、カービィだけができることなのだ。

「困ったとき…だけ、じゃないか。とにかくすごく優しくて、一緒にいると、ほわほわする人なんだって言ってた」

「優しくて、ほわほわ…?」

僕が?

「そう。優しくて、ほわほわ!」

カービィは可愛らしく笑う。

そんなことを言ってくれてたのか。
少しくすぐったいような気持ちになる。

「彼のこと、大好きなんだね?」 
とカービィは言った。

「…うん」
僕は頷く。


「だけどね、カービィ。好きは好きでも、ちょっと…好き『すぎる』というか…僕は、どこかおかしいんだ」

「えっ…? どうして?」

「空っぽだからだよ。いつもバンダナ君が、バンダナ君が…って思ってて、それを取り除いたら、自分のことが、よくわからないんだ。
僕自身はどうしたいのか、何のために生きてるのか、とか…」

そう、空っぽだ。
選んだ先に彼がいない…そんな未来なんてとても想像できないし、見つけられそうもない。

「何言ってるの!」
バシッ。
カービィが僕の背中を叩いた。…ちょっと痛い。

「全然、空っぽじゃないよ! だって…好きって気持ちでいっぱいなんでしょ?ワドルディのこと」

「え?」

驚いた。
そういう見方も、ある…のかな。

「いいなあ。そんな風に思ってもらえたら嬉しいと思うよ〜」


「いや、違うんだ、カービィ。」

「何が違うの?」

「バンダナ君は、頭が良くて、何でもできて、それに優しくて強い人なんだ。
僕は、何をやっても普通より、ちょっとできるかなってくらいで。何より、何をやるにもゆっくりしてるから…彼にはとてもついていけてないんだ…」

「それが…なんなの?」

「いくら好きでも、彼の足を引っ張るだけなら、

そばにいる資格なんて、ないんだよ…」

「そばにいるしかく?」

「…そう」


「それ、ほしいの?」

「…まあ、もらえるんならね」
苦笑い。



「じゃあ、ぼくがあげる!」

「え?」


そう言ってカービィが渡したのは、

「!」



「『しかく』い、石…?」


「そう。さっきグーイと一緒に見つけたの」

「角がとれた、まあるいしかくです」
グーイが説明をする。​

「これが、ワドルディの、そばにいてあげる『しかく』だよ。どう?」

「ダジャレかい?」
思わず吹き出してしまうと、

カービィはふふふと笑う。

「でも、ほんとはこんなのいらないと思う。
だって、好きなんでしょ? そう思ってくれる人が一緒にいてくれたら、心強いはずだもの。

だけど…もし、また迷ったら、この石を思い出してよ?」

「…!」

「今まで通り、嬉しいことは一緒に喜んであげて、悲しい時には話をきいてあげて。とにかく、いっぱい、いーーーーっぱい、そばにいてあげて…!」


ねっ?

と、その手に力を込めた。


「…ありがとう、カービィ」

その石を、受け取った。


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